その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―




休憩室から企画部のオフィスに戻るまでに、さっき川口企画部長に呼びだされた会議室の前を通る。

ちょうどそのそばに差し掛かったとき、ドアが半分ほど開いた会議室から話し声が聞こえてきた。


「企画部の碓氷って仕事はできるけど気が強くて困るんですよね。さっきだって余分な予算を使ったことで謝罪に来たけど、形式上謝ってますって感じだけで、全然悪いと思ってないですよ」

声の感じからして、川口部長だ。

悪く言われることには慣れているけど、はっきりと聞こえて来た自分の名前につい足を止めてしまう。

それに気付いた広沢くんが、同じように足を止めて気遣わしげに私の顔を見た。

だけど、私の意識は会議室から聞こえてくる声のほうに囚われてしまう。


「主任としてよくやってるとは思うけど、確かに性格はキツいよな。誰だっけ、企画部の新人で可愛い子……」

「秦野さん?」

「そうだ、秦野さん。あの子がよく泣かされてるんだって?」


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