その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―
「碓氷さん……」
会議室のドアの陰で全身を小さく震わせていると、広沢くんが私の耳元で名前を呼んだ。
彼の声にはっとさせられる。
そうだ。そういえば私は今、広沢くんと一緒にいたんだ。
会社での、彼の上司としての顔を忘れて取り乱すところだった。
私は震える手をぎゅっと握りしめると、口角を引き上げて彼に笑いかけた。
そうしながら、顔にかかった横髪を耳にかける。
「ごめんなさい。あんな根も葉もない噂をされて。他の人にもし何か言われても気にしないで。何なら、川口企画部長たちの言う通り、私のせいにしたって構わな――……」
だけど最後まで話終わらないうちに、髪に触れていた手が広沢くんに強くつかまれた。
驚いて目を見開いたのも束の間、そのまま企画部長たちのいる隣の空室の会議室に引きずり込まれる。