その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―
「どうして、こんな状況でも泣かないんですか?」
「広さ――……」
名前を呼ぼうとしたら、電気の消えた暗い会議室で、広沢くんに抱きしめられて、その胸に顔をきつく押し付けられた。
「俺が泣かせてあげるから、辛いときは我慢しないでちゃんと泣いてください」
私なんかよりもずっと泣きそうな広沢くんの掠れた声に耳元で囁かれたら、どうしようもなく胸が熱くなった。
私なんかにこんなふうに優しくしてくれる年下の彼の気持ちが嬉しくて、涙どころか笑い声が溢れてしまう。
きつく閉じ込められた腕の中で、クスクスと小さな笑い声をたてていたら、広沢くんが私を抱きしめる腕の力を緩めた。
「何笑ってるんですか?」
眉間にシワを寄せて不服そうに見下ろす広沢くんから視線をそらして、私はまたクスクスと笑う。
「別に。広沢くんが真剣なのが可笑しいから」