その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―
「後でお店で」
そう言いながら次々と去って行く社員たちの背中を、憂鬱な気持ちで見送って行く。
部署内から人がいなくなるまで、あと数人。
ため息を吐きたい気持ちで彼らが立ち去るのを待っていると、まだ部署内に居残っていた広沢くんが、カバンを持って私のほうへ歩いてきた。
それに気付いた私は、慌ててキーボードに手を載せて仕事が立て込んでいるフリをする。
「碓氷さん、終わりそうですか?」
「うーん、どうかな」
小首を傾げる広沢くんの顔を見ないように、忙しなくキーボードに載せた手を動かしながら返事する。
「何か手伝うことあります?」
今する必要のない仕事を忙しそうにこなしているだけなのに、広沢くんが気遣うような目で見てくるからものすごく困った。
「いえ、大丈夫。気にしないで。広沢くんは幹事なんだから、早く行ったら?」
敢えて目を合わせずに話す私を、広沢くんが何か言いたそうにジッと見下ろしてくる。