その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―
「そうやって残業ってことにして、歓迎会すっぽかすつもりじゃないですよね?」
心を読まれたような気がしてドキリとする。
「そんなわけないでしょ」
目をそらしているから疑われるのかもしれない。
いつものように、毅然と視線をあげなければ。
キーボードを打つ手を止めて顔を上げると、広沢くんが無表情で私に向かって手を差し出した。
私のほうに向けられた手のひらを不思議に思って眺めていると、広沢くんが低い声でボソリとつぶやく。
「じゃぁ、携帯番号教えといてください」
「どうして?」
「俺、言いましたよね?定時過ぎて1時間以上の残業は禁止だって。1時間経っても来なかったら、電話かけるんで」
「……」
どうして広沢くんがそこまで私の出席に拘るのかが全然わからない。
新しく入った菅野さんをできるだけ部署全員で歓迎してあげたいという、幹事としての志が強いんだろうか。