その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―
私は少し考えてから、作業中のファイルを全部保存して、パソコンの電源を落とした。
「わかったわ。急ぎの仕事はもうないから、私ももう出ます」
観念して立ち上がると、広沢くんがなんだか複雑そうな表情で私の行動を見ていた。
「何?」
「いえ、別に」
首を傾げると、広沢くんが顔をそらしながらボソリと答える。
その反応を疑問に感じながら、シャットダウンしたノートパソコンを閉じかけてハッとした。
「お店の場所、どこだった?メールに送られてきた住所をきちんと確認していなかった」
「メールなら、スマホでも確認できますよ?」
指摘されて、そういえば……と思い出す。
カバンからスマホを取り出してメールをチェックしようとすると、その手を横から広沢くんにつかまれた。
「確認できますけど……今はその必要ないですよ。俺が案内するんで、一緒に行きましょう」