その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―


「は?どこが?」

怪訝な声で反応したのは、おそらくからかいの対象になった広沢 律(ヒロサワ リツ)本人。

私が泣かせた秦野さん同様、8つくらい歳下の私の直属の部下だ。


「どこがって、めちゃくちゃ気に入られてるじゃん。今秦野さんが書き直しさせられてる、碓氷さん主導の企画の別案、お前が書いたんだろ?秦野さんのが間に合わなかったらそっちが通るって」

「へぇ。そんなの初耳だけど」

「秦野さんが直接言われてたらしいぞ。だいたい、お前の企画書は碓氷さんに文句つけられることなく一発でオッケーだったんだろ。碓氷さんが、企画書一発で通すことなんて滅多にないし。それに、他にもいろいろ碓氷さんから贔屓されてるじゃん」

「全く身に覚えがないけど」

「そうかー?碓氷さん、広沢に気があるんじゃねぇの?」

「は?」


広沢くんが、迷惑そうな声を出す。

彼の反応には私も全く同感だったから、物陰に隠れたまま思いきり眉を顰めた。


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