その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―
「いいじゃん。広沢、狙ってみれば?碓氷さんって全然笑わないし、後輩に厳しいし、キツめの顔してるけど、美人なほうだし。まぁ俺は、守ってあげたくなるような秦野さんのほうがタイプだけど」
顔の見えない相手の勝手な言いがかりに、心底うんざりとする。
どうして、企画書を一発で通したくらいで私が広沢くんに気があることになるんだ。
突き返すことなく一発で通したのは、彼の企画書に非がなかったから。
それだけのことなのに。
頭を抱えて壁にもたれていると、今度は広沢くんの声がした。
「お前の好みなんてどうでもいいよ」
「ていうか、広沢こそ秦野さん派だろ?同期の中でも仲良いし」
「じゃぁ碓氷さんのことは?」
「俺、2つ以上年上な女には興味ない」
「あー、残念。碓氷さん、失恋じゃん」
広沢くんを、顔の見えない別の誰かがふざけて煽る。
どうして、恋してもない相手に失恋しなくちゃならないのよ。