その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―
「あの、実は、これから新規の問い合わせ先にうちの会社の資料を持って伺うことになっていて……そのあと戻って来れるかどうか……」
だんだんと声量が小さくなっていく秦野さんの話を聞きながら、社員のスケジュール表をパソコン上でチェックする。
秦野さんの今日の予定を見ると、たしかにこのあと取引先に出かけることになっている。
アポイントが夕方の16時からで、それが終わったあとは帰社せず帰る予定になっていた。
なるほど。
外出のあと、時間的に会社までは戻ってきたくないわけね。
無理に帰社させて残業させたらまた上の人たちから怒られるのだろう。
私はため息を吐くと秦野さんに視線を戻した。
「わかったわ。私が訂正して準備しておく。営業に出るまでに、秦野さんが持っている訂正前の資料データをメールに添付してもらっていい?」
私の言葉に、秦野さんの目の色がパッと一瞬明るくなる。