その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―
II
「大事な話があるから」
そんなふうに誘われた、彼とのひさしぶりのデートは、誘われたその時点からなんとなく嫌な予感がしていた。
土曜日の昼前に待ち合わせをして一緒にランチをしたあと、観たい映画があるという彼に付き合って映画館に行く。
そこまではよかった。
彼が連れて行ってくれたイタリアンレストランのランチは美味しかったし、映画館ではLサイズのポップコーンを仲良く分け合った。
彼が観たがったアクション映画の内容も、まぁ悪くなかった。
ひさしぶりの彼との時間は楽しくて、映画を見終わってカフェに入る頃には、デートに誘われたときに感じていた嫌な予感のことなどすっかり忘れてしまっていた。
だから、カフェに入ってアイスコーヒーをふたつ注文したあとも、私は今見た映画の感想や最近の仕事のことなどをとりとめもなく話し続けていて。
それに曖昧に相槌を打つ彼が、ずっと長いこと目の前に置かれたアイスコーヒーに手をつけていないことに気付けなかった。