その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―
「部屋番号です。下まで来てるんですけど、入口のインターホン鳴らすんで開けてくれません?」
下まで来てる……?
しばらく考え込んでようやくその意味を理解したとき、スマホを持ったまま唖然としてしまった。
「どうして下に来てるの?」
少し間を空けてから低い声で聞き返す。
「碓氷さんはきっちりしてるから、冷蔵庫空っぽなんてことはないと思うんですけど。調子悪いと買い物とか食事に困るかなーと思って、飲み物とかゼリーとかあっためるだけのお粥とか買ってきました。部屋まで届けさせてください」
「そこまで頼んでないけど」
「そうですね。だから、俺からの差し入れです」
「でも……」
「差し入れたらすぐ帰るんで、とりあえず入れてください。なんか、雨降ってきちゃって買ってきたもの濡れるんで」
「雨……」
カーテンを閉め忘れていた窓の方を見ると、たしかにそこに雨粒がついていた。
「わかったわ。とりあえず上がってきて」
仕方なく広沢くんに部屋番号を伝えると、エントランスのセキュリティロックを解除する。