その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―
「大丈夫よ」
広沢くんの手を振り切って、買い物袋を引きずりながら奥へ進もうとしていると、許可してないのに彼が靴を脱いで上がり込んできた。
「そこまで運びます」
隣に立って買い物袋を取り上げようとする広沢くんを、あまり力の入らない目で見上げる。
「もう帰って大丈夫よ」
「大丈夫って言ったって、碓氷さん顔色悪いし。さっきからずっとフラフラじゃないですか」
「大丈夫よ。そんなことより、私、あなたにうちに上がっていいなんて言ってないけど」
本当はこうやって言い合いするのだって、頭が痛くて結構キツい。
「雨降ってるなら、そこにある傘を適当に持って行って」
玄関の傘立てに目線を投げて言いながら、広沢くんを押し退ける。
だけど、怠さで全く力の入っていない私の手は、簡単に広沢くんにつかまった。
「ほんっと、強情ですよね。碓氷さんって」
広沢くんが呆れ顔でため息を吐く。