その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―
早く着替えなくちゃ。
「碓氷さん、起きました?」
よろよろとクローゼットからスーツを取り出していると、ドアのほうから幻聴が聞こえてきた。
珍しく遅刻しそうになって、私、おかしくなってる……?
けれど、振り向いた先には広沢くんの姿があって、驚きのあまりに腰を抜かしそうになった。
口を開き、よろめいてクローゼットのドアを支えにして立つ私に、広沢くんが心配そうな顔で歩み寄ってくる。
「大丈夫ですか?」
広沢くんはクローゼットのドアに寄りかかるようにして立つ私の腕を引っ張って支えると、空いている方の手を私の額に押し当てた。
「碓氷さん、まだ熱下がってないですよ。今日は休み取ったほうがいいんじゃないですか?」
心配そうに眉根を寄せて少し顔を近づけてくる彼に、ただただ戸惑う。
「ど、どうしてあなたがまだうちにいるの?」
「あ、すいません。昨日、ゼリー取りに行って戻ってきたら碓氷さん寝ちゃってて。帰ろうと思ったんですけど、鍵かけないままで出て行くと危ないかなーって。けど、体調不良で寝てる碓氷さんを起こすのも申し訳ないし。また起きるかなと思って待ってるうちに俺もソファーで寝ちゃってて、気付いたら朝でした」