その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―


そういう事情があったのね、なんて笑って答えることもできず、私はただ呆然とするばかり。

そんな私を、広沢くんがベッドのほうに導いて行って座らせた。


「今日は休んで、一日寝てたほうがいいですよ」

「でも、秦野さんと取引先に同行する予定が……」


そう言って腰をあげようとする私を、広沢くんが肩を押して座らせる。


「秦野だって新人じゃないんだから、ひとりで取引先にくらい行けますって。それよりも、取引先相手に風邪うつす方が迷惑ですよ」

「だけど……」

「だけど、じゃないです。いつも誰よりも早く出勤してきている碓氷さんが朝起きれてない時点で、まだ体調悪いってことでしょ?」

「…………」

広沢くんの言っていることは間違っていないから、全く言い訳ができない。

黙り込む私に、広沢くんが枕元に置かれた体温計を手渡してきた。


「はい。熱計って」

命令するようにそう言って、今度は枕元に置かれた私のスマホを取り上げる。



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