極上御曹司のヘタレな盲愛
「だから言ったじゃない!水島課長は桃ちゃんの事が好きなんじゃないかって!」

ウンウン頷く恵利ちゃんの横で、美波先輩が腕を組んでふんぞり返って鼻の穴を広げている。

お昼休み…いつものパスタ屋さん。
いつもの如く、メニューも見ずに本日のランチを3人分頼んだ。

「……という事だったんです」

慰安旅行で大河にプロポーズされてからの事と、今朝の顛末を美波先輩と恵利ちゃんに話した。

さすがに昨日の大河との話し合いの後にあった事は言えなかったけど…。

「成る程ね、そういう事だったんだ…」

「凄い事になっていたんですね」

「水島課長は花蓮さんの事を好きだって噂もあったけどね…。私はかなり前から違うかなって思っていたわよ。
桃ちゃんにしょっ中絡むのを見てて、この人…好きな子を苛める小学生みたいだなって思ってた」

小学生って…。ふふふ…。
美波先輩にかかっては、あの大河も小学生なんだ。


「それにしても受付の斎藤紫織…凄いわね。そこまで水島課長に執着してるとは…」

「水島課長に執着してるというか…桃センパイに執着してるというか…。
とにかく私、あの人大嫌いです!やっぱり何発か殴ってやれば良かった!私の大事な桃センパイに怪我までさせて〜!」

「でも水島課長って、やっぱり大企業の御曹司様なのね。電話一本でST製薬みたいな中堅の会社を潰す事が出来るなんて…。さっき見たら、ネットニュース凄い事になってたわよ」

「あの人の嘘で、10年以上も桃センパイに避けられる事になったんですもん!課長が怒るの当たり前ですよ!おまけに最後に呪いの言葉まで吐かれちゃあ…」

「大河が怒ってるのは、実はそれだけじゃなくて…」

数年前のパーティーで、斎藤紫織の父親に私がされた事を言うと…。

「「うわぁ!最低!」」
2人は声を揃えて言う。

「そりゃ怒るわ…」

「父娘揃って胸糞悪くなりますね。言葉悪くてすみません…」

「まあ…ご飯が不味くなるから、彼女の話はこれくらいにして…。
で、桃ちゃんは水島課長と結婚する事に決めたの?」

美波先輩が、本日のランチのピザを1ピース取りながら訊く。

「はい…。ずっと逃げ回ってたけど、なんだかもう捕まっちゃったみたいで…。籍を入れるまでに3ヶ月の猶予はあるんですが…私、今朝の騒動で気付いちゃったんですけど…なんか…大河の事が好き…みたいで…。一緒に居たいんです…」

顔を赤くして私がそう答えると、美波先輩は笑って言った。

「じゃあ、結婚するのね。うん!逃げ回ってるより、ずっといいわよ!」

「桃センパイ!初恋おめでとうございます!」


「でも…そうやって考えると…。
水島課長と常務が女子更衣室前に居たのって…偶然じゃないわよね?
桃ちゃんと水島課長が一緒に出勤すれば、課長フアンの女子が桃ちゃんに絡むのなんて、目に見えてるじゃない。麻美ちゃんの事もあったのに…。
課長の狙いはたぶん…営業2課のお荷物だったアシ達を一掃して…わざわざそれを他の女子社員達に見せて、水島課長の方が桃ちゃんを好きなんだぞっていう事を知らしめて、花蓮さんの事を好きだという噂を消す…。
尚且つ、桃ちゃんの事を『残念な方』なんて呼んだらこういう事になるんだぞって脅しをかけて…。嘘の噂ばかりを流す斎藤紫織の本性を炙り出してみんなに見せる…」

「おまけに今朝の噂を聞いたら、桃センパイに手を出そうっていう男の人も居なくなりますよね?」

「そうね。手なんて出そうものなら、水島グループに全力で潰される事になるから…。桃ちゃんが怪我をさせられた事だけは、大誤算だっただろうけど…後は計算尽くよね…」

「恐ろしい…」

そうだったのかな…。
十分あり得る…。

帰ったら大河に訊いてみよう…。


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