極上御曹司のヘタレな盲愛
「だいたいあの状況を見ていたのなら、なんで羨ましいって思うのよ!」
ドンっとジョッキを置いた私に、後輩の恵利ちゃんが
「桃センパイ!こぼれる!」
とおしぼりでテーブルに跳ねたビールの雫を拭いた。
「あの営業の人達はさ。みんな水島課長狙いであの人と結婚したくて堪らないのよ。でもどれだけ迫っても全然相手にされないから、内容はどうあれ彼に構われる桃ちゃんにとにかく文句をつけたいだけなのよ」
と美波先輩がビールを豪快にゴキュゴキュ飲みながら言う。
昨夜の創業記念パーティーが無事に終わったため会社からご祝儀が出た。
今日は定時後、会社近くの居酒屋で庶務課の打ち上げが行われている。
「桃センパイ、ごめんなさい。私が倒れたばかりに迷惑かけちゃって」
眉尻を下げて謝る恵利ちゃんに、私は笑って言う。
「もう謝らないでよ!今日一日中謝っていたじゃない。で体の方はもう大丈夫なの?」
「はい。実は私、昨日はアレの2日目でお腹痛かったのもあってついクラクラっとしてしまって。でももう大丈夫ですよ」
恵利ちゃんは恥ずかしそうに下腹をさすってみせた。
しっかりしていて頼りになる優しい先輩と素直で働き者の可愛い後輩。
2人のことが私は大好きだ。
花蓮と一緒に親の会社に入ってしまってどうかと思ったけど、職場での人間関係には恵まれ、内向きで縁の下の力持ち的な庶務係の仕事は私に合っていると思う。
「でも。何ですかねぇ。『残念な方』って」
恵利ちゃんが言う。
「桃センパイのどこが残念なんですか。だいたい花蓮さんとはタイプが全然違うんだから比べるのがおかしいんですよ!あっちは…」
宴会場の少し離れた所で、男性社員に囲まれて庶務課受付チームで飲んでいる花蓮の方を、恵利ちゃんがチラッと見る。
「あっちは美人系で、桃センパイは可愛い系ですよ。『残念な方』なんて言ってる営業のお姉様達より、桃センパイの方がよっぽど可愛いんです‼︎」
「そうよね。あっちは大輪の薔薇…。見て楽しむ感じで迂闊に手に取ろうとすると棘が刺さって怪我をしそう。桃ちゃんはもっと可愛らしい花よね。思わず手に取りたくなるような…」
「そう!道端で咲いてるコスモスみたいな!」
「裏側にでっかい芋虫のついた…ね…」
私が自分で落とすと、大河からの残念なプレゼントの話を知っている2人がゲラゲラ笑った。
この2人と居ると、長年の自分のコンプレックスも笑い飛ばせるから不思議だ。
「楽しそうだね」
「藤井課長!」
悠太が私の隣に座り、美波先輩のグラスにビールを注ぎ始めた。
私のグラスにもビールを注ぎながら。
「昨日、帰ってから社長達に何か言われなかった?」
「いいえ、大丈夫です。花蓮に事情を説明して控え室を出たから、お兄ちゃんには伝わっていたし、父と母は、あの場に私が居ない事にも気がついていないようでしたから…」
「えッ⁈そうなの⁈」
美波先輩と恵利ちゃんが驚いた。
私は2人の方を見て頷く。
「私、両親にはなんの期待もされていないんです。お見合いの話も花蓮には連日山のように届くのに、私には1つもないんですから…。政略結婚をさせる価値もないって、きっと思っているんですよ。別にお見合いをしたいわけではないけど、親にあからさまに差別されるとちょっと傷つきますよね」
えへへと私が笑うと、美波先輩と恵利ちゃんは少し困った顔をした。
「全くあの人達は…とっくの昔に桃ちゃんを嫁に出した気でいるんだから…」
悠太は眉間に皺を寄せて小さな声で訳の分からない事を呟いた。
「でも…いい感じに子離れしていてラクじゃない。この歳になって、変に期待したり束縛したりする親より全然いいわよ」
美波先輩がウンウン頷きながら言うので、プッと吹き出した私を見て、悠太も恵利ちゃんも瞳を柔らかくした。
しばらく4人で和やかに飲んでいると。
「藤井課長〜♪」
と花蓮と同じ受付チームの斎藤さんが、悠太の事を呼びに来た。
斎藤紫織は、私と同期。
私と初等部から大学まで同じ学校出身で、花蓮の友人が何人か同期で入社したうちの1人だ。
新入社員研修後、花蓮と同じ受付チームに配属されたのは1人だけだったので、花蓮の一番の親友なんだろうなと思う。
小さい頃から私と花蓮の誕生日会にも毎年来ていたし…。
でも彼女は学生時代から私の事を激しく嫌っていた。
理由は訊いた事はないけれど…多分、営業アシスタントのお姉様方と一緒なんだと思う。
昔から大河の大ファンで、大河のことが大好きで……だから私の事が目障りなんだ。
中等部の頃、大河が私の事を『双子の残念な方』と馬鹿にして言い始めたと、意地悪な口調でわざわざ私に教えてくれたのも彼女だった。
「もぉ〜!こんな所で飲んでばかりいないで私達の方にも来て下さいよぅ」
と悠太の腕をとり、グイグイと引っ張って立たせると、悠太にはわからないように私の事をジロリと睨んだ。
「しょうがないな」
溜息を1つ吐いて、悠太は斎藤さんに腕を引かれながら受付チームの方に向かった。
「何よ、アレ!こんな所で悪かったわよね」
「本当ですよ。私あの人大嫌いです!」
美波先輩と恵利ちゃんが言うので。
「ごめんなさい。私が昔から嫌われているせいで、嫌な思いさせちゃって…」
と謝る。
色々あったが楽しく飲んで、宴会がお開きになったので店を出た。
3人で二次会に参加するかどうか話をしていた時、ふと気づくとかなり離れた所に悠太と花蓮が2人でいるのを見つけた。
2人で何か深刻そうに話している。
何とは無しに見ていると、悠太が花蓮の手をそっと握って、暫く2人は見つめあっていた。
慌てて周りを見回し、そんな花蓮達を誰も見ていないか確認した。
なんだろう。心がモヤモヤする…。
私も学生の頃、悠太とふざけて腕を組んだりした事あるし、手だって繋いだ事もある。
花蓮だってそうだ…。
そう思うのに、二次会の間もずっと心がモヤモヤして落ち着く事はなかった。
ドンっとジョッキを置いた私に、後輩の恵利ちゃんが
「桃センパイ!こぼれる!」
とおしぼりでテーブルに跳ねたビールの雫を拭いた。
「あの営業の人達はさ。みんな水島課長狙いであの人と結婚したくて堪らないのよ。でもどれだけ迫っても全然相手にされないから、内容はどうあれ彼に構われる桃ちゃんにとにかく文句をつけたいだけなのよ」
と美波先輩がビールを豪快にゴキュゴキュ飲みながら言う。
昨夜の創業記念パーティーが無事に終わったため会社からご祝儀が出た。
今日は定時後、会社近くの居酒屋で庶務課の打ち上げが行われている。
「桃センパイ、ごめんなさい。私が倒れたばかりに迷惑かけちゃって」
眉尻を下げて謝る恵利ちゃんに、私は笑って言う。
「もう謝らないでよ!今日一日中謝っていたじゃない。で体の方はもう大丈夫なの?」
「はい。実は私、昨日はアレの2日目でお腹痛かったのもあってついクラクラっとしてしまって。でももう大丈夫ですよ」
恵利ちゃんは恥ずかしそうに下腹をさすってみせた。
しっかりしていて頼りになる優しい先輩と素直で働き者の可愛い後輩。
2人のことが私は大好きだ。
花蓮と一緒に親の会社に入ってしまってどうかと思ったけど、職場での人間関係には恵まれ、内向きで縁の下の力持ち的な庶務係の仕事は私に合っていると思う。
「でも。何ですかねぇ。『残念な方』って」
恵利ちゃんが言う。
「桃センパイのどこが残念なんですか。だいたい花蓮さんとはタイプが全然違うんだから比べるのがおかしいんですよ!あっちは…」
宴会場の少し離れた所で、男性社員に囲まれて庶務課受付チームで飲んでいる花蓮の方を、恵利ちゃんがチラッと見る。
「あっちは美人系で、桃センパイは可愛い系ですよ。『残念な方』なんて言ってる営業のお姉様達より、桃センパイの方がよっぽど可愛いんです‼︎」
「そうよね。あっちは大輪の薔薇…。見て楽しむ感じで迂闊に手に取ろうとすると棘が刺さって怪我をしそう。桃ちゃんはもっと可愛らしい花よね。思わず手に取りたくなるような…」
「そう!道端で咲いてるコスモスみたいな!」
「裏側にでっかい芋虫のついた…ね…」
私が自分で落とすと、大河からの残念なプレゼントの話を知っている2人がゲラゲラ笑った。
この2人と居ると、長年の自分のコンプレックスも笑い飛ばせるから不思議だ。
「楽しそうだね」
「藤井課長!」
悠太が私の隣に座り、美波先輩のグラスにビールを注ぎ始めた。
私のグラスにもビールを注ぎながら。
「昨日、帰ってから社長達に何か言われなかった?」
「いいえ、大丈夫です。花蓮に事情を説明して控え室を出たから、お兄ちゃんには伝わっていたし、父と母は、あの場に私が居ない事にも気がついていないようでしたから…」
「えッ⁈そうなの⁈」
美波先輩と恵利ちゃんが驚いた。
私は2人の方を見て頷く。
「私、両親にはなんの期待もされていないんです。お見合いの話も花蓮には連日山のように届くのに、私には1つもないんですから…。政略結婚をさせる価値もないって、きっと思っているんですよ。別にお見合いをしたいわけではないけど、親にあからさまに差別されるとちょっと傷つきますよね」
えへへと私が笑うと、美波先輩と恵利ちゃんは少し困った顔をした。
「全くあの人達は…とっくの昔に桃ちゃんを嫁に出した気でいるんだから…」
悠太は眉間に皺を寄せて小さな声で訳の分からない事を呟いた。
「でも…いい感じに子離れしていてラクじゃない。この歳になって、変に期待したり束縛したりする親より全然いいわよ」
美波先輩がウンウン頷きながら言うので、プッと吹き出した私を見て、悠太も恵利ちゃんも瞳を柔らかくした。
しばらく4人で和やかに飲んでいると。
「藤井課長〜♪」
と花蓮と同じ受付チームの斎藤さんが、悠太の事を呼びに来た。
斎藤紫織は、私と同期。
私と初等部から大学まで同じ学校出身で、花蓮の友人が何人か同期で入社したうちの1人だ。
新入社員研修後、花蓮と同じ受付チームに配属されたのは1人だけだったので、花蓮の一番の親友なんだろうなと思う。
小さい頃から私と花蓮の誕生日会にも毎年来ていたし…。
でも彼女は学生時代から私の事を激しく嫌っていた。
理由は訊いた事はないけれど…多分、営業アシスタントのお姉様方と一緒なんだと思う。
昔から大河の大ファンで、大河のことが大好きで……だから私の事が目障りなんだ。
中等部の頃、大河が私の事を『双子の残念な方』と馬鹿にして言い始めたと、意地悪な口調でわざわざ私に教えてくれたのも彼女だった。
「もぉ〜!こんな所で飲んでばかりいないで私達の方にも来て下さいよぅ」
と悠太の腕をとり、グイグイと引っ張って立たせると、悠太にはわからないように私の事をジロリと睨んだ。
「しょうがないな」
溜息を1つ吐いて、悠太は斎藤さんに腕を引かれながら受付チームの方に向かった。
「何よ、アレ!こんな所で悪かったわよね」
「本当ですよ。私あの人大嫌いです!」
美波先輩と恵利ちゃんが言うので。
「ごめんなさい。私が昔から嫌われているせいで、嫌な思いさせちゃって…」
と謝る。
色々あったが楽しく飲んで、宴会がお開きになったので店を出た。
3人で二次会に参加するかどうか話をしていた時、ふと気づくとかなり離れた所に悠太と花蓮が2人でいるのを見つけた。
2人で何か深刻そうに話している。
何とは無しに見ていると、悠太が花蓮の手をそっと握って、暫く2人は見つめあっていた。
慌てて周りを見回し、そんな花蓮達を誰も見ていないか確認した。
なんだろう。心がモヤモヤする…。
私も学生の頃、悠太とふざけて腕を組んだりした事あるし、手だって繋いだ事もある。
花蓮だってそうだ…。
そう思うのに、二次会の間もずっと心がモヤモヤして落ち着く事はなかった。