極上御曹司のヘタレな盲愛
「ごめん、桃。入籍したばかりで悪いんだけど…俺、今日は夕方から他社で抜けられない打ち合わせがあるから一緒に帰れないんだ。
それに打ち合わせ後に会食があるから、晩飯も家で食えない…」

眉尻を下げて申し訳なさそうに言う大河に私は笑って言った。

「お仕事だから仕方ないよ。大丈夫、打ち合わせ頑張ってね!
じゃあ私は美波先輩と恵利ちゃんと晩御飯を食べに行って、入籍の報告でもしようかなぁ」

「わかった。気をつけて帰るんだぞ。出来るだけ俺も早く帰るから…」

お昼休憩時間に会社に到着し、大河とそんな事を話しながらエントランスをくぐった。

エレベーターの前で
「今日は階段を使わないのか?」
と、大河がニヤニヤしながら言う。

私が全身筋肉痛だってわかっているくせに!
本当にイジワルだ!

「このまま上まで行くぞ…」

エレベーターに乗り込むと、腕時計を見ながら最上階のボタンを押し、大河が言う。

「うん」

社長室のお父さんに結婚の報告をするという事なんだろう。

たった4日前に、絶対に結婚なんかしないって言って家を出たのに…。
お父さんと会うの、気まずいよ…。

エレベーターが最上階に着いて、秘書さんに確認してから社長室に入る。

花蓮は欲しいものがある時などに社長室を訪れて父にお小遣いを貰ったりしているらしいが、私は入社して以来、社長室に入るのはこれが初めてだった。

秘書室長でもある社長秘書の小林さんは、もう20年くらい父に付いているので、私の事は子供の頃から知っているが、入社以来初めて私が父の元を訪れたので、いつも冷静沈着な彼にしては珍しく仰天していた。

「おじさん!俺たち無事に入籍したよ」

社長室に入るなり大河が言うと、父は私達二人を見て、とても嬉しそうに笑った。

「思ったより早かったな…」

悠太と同じ事を言ってる。なんだか少し腹が立った…。

「桃が、結婚なんかしないって嫌がりながら大河の所に行ったから、母さんと二人でいつ帰ってくるかと心配していたんだよ。
家出もしたそうだし…正直、ダメかと思っていた。
結局大河の押しに負けたんだな…。
お前、相当無理したんじゃないのか?」

と笑いながら大河を睨む。

「光輝に聞いたが、昨日の朝も大変だったらしいじゃないか。
怪我の様子はどうなんだ…」

「大丈夫。時間が経てば傷跡も残らないってウサコ先生に言われたよ」

私が答えると父は安心したように微笑んだ。

「そうか…。とにかく、二人ともおめでとう!大河…桃の事をよろしく頼むぞ」

「任せとけ!」

大河は綺麗な顔でニッコリ笑った。


社長室を出た後、常務室に行きソファーで仮眠中だった光輝を起こして、私達の入籍を報告した。

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