極上御曹司のヘタレな盲愛

「あの…この度、私…入籍いたしました…」

「はぁーー⁉︎」
「えぇーー⁉︎」

話したい事があるので定時後にご飯に行こうと誘うと、美波先輩も恵利ちゃんも快くＯＫしてくれた。

ここは３人でたまに来る洋風居酒屋さん。
席が半個室になっているので話がしやすい。

口をあんぐり開けて驚く先輩と恵利ちゃん。

「似鳥 桃は、水島 桃になってしまいました…」

「急ねぇ…。昨日、３ヶ月の猶予がどうとか言ってなかった？」

「まあ近いうちに結婚するんだろうなぁとは思っていましたが…婚約期間、短ッ！」

「はぁ…、なんか勢いで…入籍してしまいました」

「まあ…とりあえずめでたいわ！おめでとう！」

「おめでとうございます！」

「ありがとうございます！」

「じゃあ、桃ちゃんの結婚を祝して！乾杯！」

「「乾杯〜！」」

うー！ビールが美味しい！

「で？今日入籍ってなった決め手は何？水島課長はそんなにエッチが上手かった？」

「ぶはっ！えーーエッ…ゴホッ！ゴホッ！えーー？なんで！」

美波先輩の言葉に、美味しく飲んでいたビールを吹き出しそうになってむせた！

「なんで？って…あまりにも急だし…桃ちゃん今日昼から来てずっと歩き方おかしかったし…」

「！」

歩き方！気をつけていた筈なのに！
見る見る間に全身真っ赤になってしまった。
これじゃあ、美波先輩の言う事が当たってますって言ってるようなもんじゃない！
恥ずかしすぎて顔が上げられない！

そんな私を見て恵利ちゃんがフォローするように慌てて言う。

「大丈夫です！座るたびに微妙に顔を顰めてたのも、私達しか気がついていないと思いますよ！」

「大丈夫！しゃがんで下を向くと、ブラウスの胸元奥にキスマークが見えるのも、私達しか気がついてないはずよ！」

恵利ちゃんと美波先輩の言葉はなんの慰めにもならない…！美波先輩に至っては、絶対にワザとだ…。

「…上手いかどうかは…私…初めてだったのでよくわかりませんが…。
…とっても幸せだったんです…なんだか…。
だから…結婚しちゃった…」

真っ赤な顔をして俯いたまま小さな声で言うと、正面と斜め前から美波先輩と恵利ちゃんの手が伸びてきて、２人にナデナデと頭を撫でられた。

「こんなじゃあ、水島課長も可愛くてしょうがないでしょうねぇ」

「はい…私が男だったら、あんな事もこんな事もしたくなりますね」

その後もきわどい質問から結婚式の事まで、２人から質問責めにあったのだった…。


駅で、反対方向の美波先輩と恵利ちゃんに手を振って別れた。


恥ずかしくていつもよりつい飲みすぎてしまった…。
でもご飯も美味しかったし、楽しかった。

時間は２１時半過ぎ。

大河はまだ帰っていないかな？帰っていると嬉しいな…。大河に早く会いたい。


マンションのある駅に着き、駅から伸びる歩道橋を、お酒のせいで少しフワフワした足どりで渡る。
歩道橋を渡ればすぐにマンションだ。

渡り終え階段を下りようとした時に、バッグの中のスマホが鳴った。

大河からだ！
自然と頬が緩む。

電話に出ようとスマホに指を滑らせ耳に当てた時だった…。



ドンッ！



後ろから伸びてきた手に背中を強く押され…。
手の中のスマホはどこかに飛んでいき…。

私は短い悲鳴をあげて……階段から落ちていった…。



ガツンッ！



手すりに頭を強くぶつけ、目の前に火花が散り、意識が朦朧とする中…。

「桃ちゃん！」

と私の名を呼び、私を受け止める誰かの腕…。

「何をしてる！早く捕まえろ！」

と叫ぶ、よく知っている声を聞いた気がしたけれど…。


次の瞬間、私の意識は途切れ……何もわからなくなってしまった…。


桃…桃と呼ぶ声が遠く遠く響く…。

愛しくて…応えたいのに…。