極上御曹司のヘタレな盲愛
思いのほか出先での会議と会食が早く終わり、俺は家へと急いだ。

夕方会社を出る時に思いつき、タワーマンション1階に入っている有名宝飾店に電話しておいた。
結婚指輪と婚約指輪を揃えたいと伝えておいたため、閉店時間は過ぎていたが店長が店に残って待っていた。

桃と一緒に見に行ってもいいが、やはりサプライズで渡して桃の喜ぶ顔が見たかった。
サイズは以前、ショッピングモールで指輪を買った時にわかっている。

奥の部屋に通され、並べられた様々なデザインの指輪から、桃の顔を思い浮かべて…シンプルながら甘めのものを選んだ。

結婚指輪に入籍した今日の日付を入れて貰うように頼む。

指輪が出来上がったら早めに式を挙げよう。
俺が水島に戻ったらしばらくは鬼のように忙しくなるし…。
昼間、航我に電話をした後に両親と祖父に桃と入籍したと報告したら、みんな『結婚式!結婚式!』と大騒ぎだったから、意外ともう詰められているのかもしれない。

特に祖父は大喜びで浮かれ切っていたからな。


指輪を頼み終え、宝飾店を出て…そんな事を考えていた時だった…。


電話が震えたので見ると航我からだった。

出ると珍しく焦った航我の声…。
『もしもし!兄さん!今どこにいる?』

マンションの下の宝飾店にいる事を告げると。

『兄さん!ごめん!俺のミスだ!斎藤紫織は昨夜、飛行機に乗っていなかった!
父親と母親だけ出国して、娘だけギリギリで引き返したらしい!出国ゲートまでは監視していたんだけど…。兄さんに言われてあっちの支社の人間に確認させたら…。
あのクソ親父!トイレに行っているとか言って、娘が乗っていなかった事をのらりくらりとはぐらかしたらしくて!やっと報告があったんだ!』

全身の血がさあッと下がるのを感じ、眩暈がした。

『桃ちゃんにつけたボディーガードからは、桃ちゃんは少し前に同僚と食事を終えて兄さんのマンションに向かってるって報告が入ったんだけど。
なんか…俺…嫌な予感がして…。
俺もそっちに向かってる。もうマンションの前に着くよ。
とりあえず桃ちゃんの無事を確認するからさ。兄さんも気をつけて!』

航我からの電話が切れる。


斎藤紫織が…まだ…日本にいる…?

『あんたなんか、ずっと死ぬまで不幸でいればいいの!これからだって!絶対に未来永劫、幸せになんてさせない!』

桃に向かってそう叫んだ斎藤紫織の声が耳にこだまする…。

暫し呆然とするが、すぐに気を取り直して桃に電話をした。

早く出ろ!
数コールの後……繋がった!

「桃!」

だが…電話の向こうで短い悲鳴が聞こえたと思ったら、大きな音がしてすぐに電話は切れてしまった…。
何度かけ直しても、もう全く繋がらない!


次の瞬間…俺は走り出していた!


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