極上御曹司のヘタレな盲愛
「兄さん!ここは俺に任せて!行って!後で俺も病院に行くよ。桃ちゃんを頼む!」

航我にそう言われ俺は頷くと、桃について救急車に乗り込み、救急隊員に水島記念総合病院に行ってくれと頼む。

走っている救急車の中で、処置を受けている桃の、血で濡れた紙のように白い顔を見ながら…。
俺は喉の奥に熱いものが込み上げてくるのを必死に耐えていた。
誰もいなければ…桃を抱きしめて号泣していただろう…。

どうして桃ばかりがこんな目に合わなければいけないんだ…。昨日の腕の傷だってまだ治っていないのに…。
ST製薬を潰せと言ったのは俺だ…。だったら俺を攻撃すればいい!
あの女!何でいつもいつも桃なんだよ!

俺たち…今日…入籍したばかりなんだぞ…。

どうか…どうか…助かってくれ…。


水島記念総合病院は、名前どおり水島グループが経営する病院で、院長は俺の叔父さんにあたる、親父のすぐ下の弟だ。

叔父さん自身も名心臓外科医として名が通っている。

病院に着き、桃が救急処置室に運ばれ、俺は廊下で待つ事になった。

光輝に電話をして、桃が斎藤紫織に襲われて歩道橋の階段の上から突き落とされた事と、救急車で水島記念総合病院に運ばれた事を話すと。

「すぐに行く。家には俺が連絡しておく」
と言って切れた。

桃が処置室に入ってから、どれくらいの時間が経っただろうか…。
まだ会社で仕事中だったと言う光輝が駆けつけて来た。

「桃は…⁉︎」

「まだ何もわからないんだ…。意識がなくて…。階段から落ちる桃を航我が下で受け止めてくれたんだが、その前にどこかで頭をぶつけたみたいで…出血が酷かった…」

「頭か…」
光輝が顔を顰める。

「アイツ…嘲笑ってたんだ…ずっと…斎藤紫織…。
坊主頭にして…男みたいな格好で近づいて…桃を突き落とした。
血塗れの桃を見ながら…高笑いして…死んだのか、ザマァ見ろって…」

光輝の顔が歪む。

「親子で日本を出たんじゃないのかよ。そう報告を受けてたけど?」

光輝に、航我から聞いた話をする。

「桃には一応ボディーガードをつけていたんだが…斎藤親子が日本を出たって聞いて…油断してた。アイツが日本に残っている事を知ってたら…もっとちゃんと守ってどこにも寄り道させず真っ直ぐに帰したのに…。
俺の…ミスだ…!」

斎藤さん…あんまり追い詰めないであげて…。
そう言った桃の優しい顔を思い出す…。

「ちくしょう…!アイツ…何でいつも桃なんだよ!あんな事までして…まだ俺を得られるとでも思っているのか…。
俺が…桃の夫だと救急隊員に告げたら…イヤだと泣き叫んでいた…」

「あんな女の思考は俺たちにはわかんねぇよ。あの昇降口の件でわかっているだろう。
あの女はお前以上に桃に執着してるとこがあるからな…。
それに…お前自身を攻撃するより桃を攻撃した方が、お前にはよっぽど効くだろう?」

そんな事を話していた時、処置室から看護師が出てきた。


< 123 / 179 >

この作品をシェア

pagetop