極上御曹司のヘタレな盲愛
「…目が覚めて…本当に…よかった…。桃が生きてて…こうして抱きしめる事が出来て…本当に…嬉しいよ…」

気づくと大河の体が小刻みに震えている。
「…!」

大河が泣いている…?

私は昨夜の大河を思い出した。

あの時の大河の手も、こうして震えていたっけ…?

もしかして…お兄ちゃんに頼まれたって言っていたけど…。
本当は心配して来てくれてたのかな。

なんだか胸がきゅうんと締め付けられた。

「心配かけて…ごめんね」

背中に回した手で優しく大河の背中を摩ると、大河は何度も小さく首を横に振って、私を抱きしめる手に力を込めた。


どれほどそうしていただろうか。

「…そろそろ消灯時間だよな…」

そう言って私から離れた大河は、もう泣いてはいなかったが…目が少し赤かった。


「明日の退院は、俺が迎えに来るからな。
もう、おじさんやおばさんには言ってある。
午前中の回診が終わってから11時までに退院してくれって言われてるから、10時半頃に来る。準備して待っていろよ」

そう言って立ち上がると、大河は私の腕をグイッと引っ張って立たせ、またフワッと抱きしめた。

「おやすみ…桃…愛してるよ…。また明日な」

大河はそう言うと背を屈め、私の唇に…そっと触れるだけのキスをして…。

茫然自失の私を残して、颯爽と病室を出て行ったのだった…。

…愛してるって…。これ…現実…?


似鳥 桃、24歳…。

長い眠りから覚めてみたら…。

人生初の記憶喪失で…。

人生初の彼氏(元天敵)ができて…。

人生初の…キスをしました…。


あれ?私…。
大河に面と向かって…『天敵』って言ったこと、あったっけ…?


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