極上御曹司のヘタレな盲愛

猛追

退院の日…。

朝の回診で、もう体は大丈夫だと医師に太鼓判を押され、記憶は焦らず思い出すようにと言われた後…。
看護師さんに、ビニールの小袋を渡された。
事故で運ばれた時に身につけていて、検査の時に外したものらしい。

荷物も纏めたし、あとは大河が来てくれるのを待つだけだ。

昨日、大河が持って来てくれたワンピースに着替えて、軽くお化粧をする。

「あ〜!お気に入りだったのに〜!」

チャック付きの小袋の中には、大学に上がった時にお祝いだと両親から貰った腕時計…。
事故のせいだろう、ガラスが割れて止まってしまっている。

それと…見覚えのない…指輪?
結構大きめのハートのダイヤの周りをメレダイヤで囲んだ、とても可愛いデザインの指輪だ。

「これ…私の…?」

試しに嵌めてみると、薬指にピッタリ嵌まった。
うー〜ん、全く覚えがないなぁ…でも可愛い!

ノックの音が聞こえて返事をすると、大河が「準備は出来たのか?」と部屋に入ってきた。

大河は私のワンピース姿をじっと見て
「うん、可愛い。俺の見立てに間違いなかったな、よく似合ってる」
と目を細めた。

これ、大河が選んでくれたんだ…。

「ありがとう…」

それにしても…。
大河の雰囲気が…甘い…甘過ぎるよ…。
これまでとのギャップがあり過ぎて…。
甘過ぎる大河に…全然慣れない!

大河はドキドキしている私に、気づいているのか…気づいていないのか…。

「何を持っているんだ?」
と手元を覗き込んでくる。

「これ…歩道橋から落ちた時に、私が身につけていたものなんだって…。さっき渡されて」

「時計、貸してみろ。う〜ん、これは修理に出してみるか。新しいのを買ってやってもいいけど、これ進学祝いにおじさんとおばさんから貰ったものだろう?」

「うん、そうなの。よく知ってるね」

「ああ。アメリカにいる俺と光輝の所に花蓮が遊びに来た時に、同じの見せられたから…。あんた達も何かお祝い頂戴よって、バッグを買わされたっけ…。光輝は靴をな…」

「ふふっ、ちゃっかりしてる…」
その光景を想像して笑ってしまった。


「お前は一回もアメリカに会いには来なかったな」

「だって!…お兄ちゃんがアメリカに行っていたのは勿論知ってたけど、お兄ちゃんとも私、中等部の頃から疎遠だったし…。
大河がニタドリに就職してる事だって、自分が入社するまで知らなかったんだもん。
知っていたとしても…わざわざアメリカまで会いに行くような関係性じゃなかったでしょ…私たち…」

「天敵だもんなぁ」

「……!」
目が泳いでしまう。

「そ、それはそうと…。腕時計と一緒にこの指輪が入っていたんだけど…」

話を変えようと、右手薬指に嵌めた指輪を見せる。

「これ、私のなのかな…?全然覚えがないの」

「……」

「私、アクセサリーは買うけど、指輪は買ったことないんだよね。…でもほら…ピッタリで一目で気に入っちゃったの。
やっぱり記憶が無い間に自分で買ったのかなぁ…。でも…薬指…自分で買うかな?だとしたら、ちょっと痛いよね?
もしかして…誰かに貰ったものだったりして…」

「貰うような奴、いたのか?」

「いないけど…」

「はいはい、じゃあ痛かったヤツだな。
いいからとりあえずそこに嵌めておけ。俺が左手にもすぐに嵌めてやるから…。医者にも深く考えるなって言われただろう。
もう時間だから行くぞ。荷物はこれだけか?」

「あ、うん。え…左手って…」

「当たり前だろう」

また赤面してしまう私の手をとって、指を絡めて手を繋ぐと、大河は荷物を肩にかけて歩き出した。

男の人と手を繋いで歩くなんて初めて。
信じられる?しかも、大河と!

ほんとは…まだ眠ってて…夢を見ているだけだなんて事は…無いよね…?
夢にしては、繋いでいる手の温かさも…。
隣を見上げると「ん?」と問いかけるように見返してくる大河の優しい瞳も…。
リアルすぎる。


長く眠っていたせいか…大河の甘さのせいか…。

ふわふわした気持ちと足取りのまま退院して、大河の車で家に帰ったのだった。


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