極上御曹司のヘタレな盲愛
昨日…ユキ先生の所から帰った私は夕飯を食べる気にもならず、自分の部屋に籠った。

大河と別れなければいけない事…。
そしてこれからの事を考えると途方に暮れてしまい、知らずに涙が次々と溢れた。

どうしてこんな事になってしまったんだろう。

どうせ大した事なんて何も無かったと軽く考えていた…。
たいして代わり映えもしない毎日だったんだろうと…。

たった2週間弱の失った記憶が…こんなにも自分を苦しめるなんて…思いもしなかった。


そうだ!
美波先輩や恵利ちゃんなら…。
私が歩道橋の事故の前に誰と付き合っていたのか知らないだろうか。

そもそも付き合っていたのかもわからないけど、自分の性格からして、付き合ってもいない人とそういう行為をするとはとても思えない。


朝起きて…泣き腫らした目に…今日は会社を休んじゃおうかななんて思っていたけれど。

やっぱり2人に、今すぐにでも訊かずにはいられない!

腫れた目を隠すように、いつもより濃いめのお化粧で朝食も食べずに家を出た私を、家族が心配そうに見ている事など、その時の私は余裕がなくて全然気づかずにいた。



でも…。
美波先輩や恵利ちゃんに訊くまでもなく…。

会社に着いてすぐに…赤ちゃんの父親は判明する事になったんだ…。



エントランスをくぐり、一瞬迷ったが…いつものように階段室に向かった。

妊娠中って階段を使っても平気なんだろうか。
病気じゃないんだから大丈夫だよね?
いつもよりゆっくりゆっくり。
足を踏み外したりしたら大変だもんね。
なにせ、歩道橋の前科があるから…。
勿論、今日のヒールはいつもより低いものにした。

4階の非常口の扉の前までたどり着き、フゥと一息ついたところで、不意に後ろから声をかけられた。


「桃ちゃん‼︎」

驚いて振り向くと、営業2課で同期の高橋涼介君だった。

桃ちゃん…?

高橋君とは、高橋君が用事があって庶務係に来た時に、挨拶程度で少し話す事はあったけれど、名前で呼び合うほど仲良くしていたわけではない。
理由あって同期会にも出た事がない私は、同期といっても親しい友人などはいない。


「やっと会えた!」

私の手をとり、両手で握りしめ、うっすらと目に涙を浮かべている高橋君…。

「目が覚めたんだね!良かった!」

「えっと…」

私は困惑した表情で、やんわりとその手を払う…。

そんな私を見て、高橋君はとてもとても悲しそうな顔になった…。


< 155 / 179 >

この作品をシェア

pagetop