極上御曹司のヘタレな盲愛

「水島課長に聞いてはいたけれど…」

「？」

「本当に何もかも…忘れてしまったんだね…」

「忘れてしまったって……何を…」

「俺が…桃ちゃんに…結婚を前提に付き合って下さいって告白した事とか…。それに…あの抱き合った日の事とか…本当に全部忘れてしまったんだね…」


ケッコンヲゼンテイニツキアッテクダサイッテコクハクシタコトトカ
…ダキアッタヒノコトトカ…


「入院中、何回かお見舞いに行ったんだけど…。
俺…９月に入ってから一昨日まで、ずっと中国や東南アジアの支店を回っててさ…」


まだ何か言っている高橋君の言葉は、頭の中に全く入ってこなかった…。

ずっと頭の中で繰り返されるのは…。

…ダキアッタヒノコトトカ…


「桃ちゃん？顔色が悪いけど…大丈夫？…って！大丈夫じゃないよね！」

目の前が真っ白になって…その場で崩れ落ちそうになるのを、高橋君に抱きとめられる。

そしてすぐに私は意識を失ってしまった…。




「目が覚めたか…」

「ウ…サコ…せん…せ…」

目を開けるとウサコ先生の心配そうな顔…。

「ウサコ先生…今…誰か…他の人…いる？」

「誰もいないよ。俺と、桃だけ…」

聞いた瞬間、涙が溢れて止まらなくなってしまった。

どうしよう！どうしよう！どうしよう！
高橋君だった！高橋君だった！高橋君だった！

でも…何も覚えていない…。
高橋君の顔を見てすら…あんな事を言われても…好きだとも…何も思えないのに！
何も…思い出せないのに…！

声をあげて泣く私の頭をウサコ先生は優しく撫でてくれる。

「さっき桃が眠っている間に、ユキ先生に電話して…妊娠のこと…聞いたよ」

「！」

「桃…。お前、まだ大河に何も話していないのか？ユキ先生も話せって言ったと思うけど…」

「……！」

涙がどんどん溢れて止まらない。
言えるわけない！言いたくないんだもん！
だって！別れたくないんだもん！

「…ウサコ先生…大河には私がちゃんと言うから…先生からは絶対に言わないで…！」

「…わかった…でも、本当に早くちゃんと話すんだぞ」

「う…ん」

早く話して…大河と別れろ…って事よね。

わかってる！わかってるよ！でも！