極上御曹司のヘタレな盲愛
その時…医務室のドアを荒々しくノックする音が聞こえ、続いてバンッとドアが開いた。

「桃!」

「こら大河、他に病人がいたらどうするんだ。もっと静かに開けろ」

「あ、ごめん!それより桃は!」

「大丈夫だって。ちょっとした貧血だから…」

今は…会いたくなかったのに…どうして来たの…。

「高橋に、桃が倒れたって聞いて…。意識戻ったんだな…。貧血だって?だから言ったろう、もっと食えって!」

良かった!また目が覚めなくなったらどうしようと思った!と言いながら抱きしめてこようとする大河の手を、無意識に避けてしまう。

どうしよう…。
大河の目が…見られない…!

「桃…?もしかして…泣いてたのか?」

「泣いてないよ…」
俯いたまま言う。

「!もしかして…ウサコ先生になんかされ…」

「されてないから!」
「してねぇから!」

「先生…もう行くね、ありがとう…。大河も…仕事を放ってきたらダメよ…心配かけてごめんね」

顔があげられない…。

今…大河と話していて気づいてしまった…。

もう…私は…素直に大河の手をとることができない。
もう…私は…素直に大河の胸に飛び込むことはできない。

もう…私は…大河の目を…見ることすらできない…。


ベッドから降り、ウサコ先生にもう一度お礼を言う。

大河に聞こえないように『約束ね』と小さく言うと、ウサコ先生はその端正な顔を顰めて小さく頷いた。



私が大河に別れを告げたのは、それから3日後のことだった…。


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