極上御曹司のヘタレな盲愛
ヘタレ御曹司の…
別れたいの…。

定時後…呼び出されて行った、会社から少し距離のあるカフェで…。

待っていた桃の前に座り、注文したコーヒーが出されるとすぐに…桃からそう告げられた。

俺は…目の前が真っ暗になったが…なぜかそんなに驚かなかった。

桃が倒れたと高橋から聞き、医務室に行った時から…桃の様子がおかしい事には気づいていた…。

ここに来て…思いつめたような桃の顔を見た時から、なんだか嫌な予感はしていたんだ…。

ここ3日くらい…桃は俺を避けているようだ。
会っても…桃は俺の目を全く見ようとしないし…俺が差し伸べた手もとらない。
俺が触れようとすると、さりげなくかわされる。

不審に思い光輝に訊いてみたが、倒れた日の前日に、桃が会社からいつもより遅く帰ってきた時にはもう様子がおかしかった、とおばさんが言っていたらしい。

その日は夕食もとらずに部屋に籠り、倒れた日の朝は、泣き腫らした顔で部屋から出てきて、朝食も食べずに会社に行ったと…。

てっきり俺と喧嘩でもしたのかと思ったと言う光輝に、全く俺には心当たりが無い事を言ったのだが…。


斎藤紫織のあの事件以来、女子社員たちは桃に同情的で、以前のように酷い言葉をかけられる事も無くなったようだと、美波ちゃんや恵利ちゃんに聞いて安心していた。

いったい桃に何があったんだろうか…。
部屋に籠って泣くほどの事…。

ちゃんと桃に訊かなければとは思っていたのだが。

実は…桃に目を合わせて貰えない事が、結構ショックで…。
しかもこの3日間、桃に避けられているように感じていたので、結局何も訊けずにいたのだった。



別れたいの…。



自惚れだと言われるかもしれないが…。

たとえ桃が何度記憶を失おうとも、桃はまた俺の事を好きになってくれると信じていた。

最初…長い眠りから目を覚ました桃が…あの大事な数日間の記憶を失ってしまったと知った時には、絶望にも似た気持ちになった…。

俺との大事な記憶を失くしても「どうせ大した事なんてなかった…」と笑っている桃を見て…。
元気になって良かったと思えど、とても悲しくて…虚しくて…。

でも…。
悠太と婚約した事を病室で桃に告げ、桃に笑顔でおめでとうと言われて泣いている花蓮を見た時に…。
俺と桃だって、何度でも何回でも…やり直せばいいじゃないか…と思ったんだ。


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