極上御曹司のヘタレな盲愛
医師に
「環境を…記憶を失う前の状況に戻して、記憶が戻るのをゆっくり待ちましょう」
と言われたのもあり…。

記憶にないのに、いきなり俺と住んでいたり、ましてや既に結婚している事を知らされると混乱するだろうと…おじさんやおばさん、光輝や花蓮、うちの家族とも相談して、退院までに桃の荷物を実家に戻すことにしたんだ。
俺たちは…結婚してから…1日だって一緒に暮らしていないから…。

入籍した当日にあの事件があったため、俺達が入籍した事実を知っているのは、お互いの家族と、悠太、美波ちゃん、恵利ちゃんだけだった。

手続きのため、人事部の一部の人間には俺達の入籍は知らされたが、社長からどこにも漏らさないように…特に桃本人の耳には結婚している事を絶対に入れないようにとの厳命が下っていた。

俺が桃と入籍した事を聞いて大喜びをし、次は盛大に結婚式だ!と騒いでいた水島の祖父は、歩道橋の事件から、桃の目がなかなか覚めなかった事や、やっと目覚めた桃が俺と入籍した記憶を失っていた事で、大きく落胆して少し老け込んだが…。
俺が、入院中すぐに桃に気持ちを伝えて、再び2人が付き合い始めた事を報告すると、満足そうに大きく頷いていた。


前回の轍を踏まえ、桃が俺について何を誤解していて、どう思っていたかもわかっている…。

付き合い始めさえすれば、再び桃に、俺の事を好きだと思わせるのは、はっきり言って…
チョロい…そう思っていた。

実際、桃の病室で…はじめに誤解を次々と解いていき「結婚を前提に付き合ってくれ」と言う俺に、桃は付き合ってみる…と即答した。

あの時は、何もかもがまた元どおりになると信じていた…。


でも…俺は…。

実は…記憶を失った桃に対して、ずっと負い目のようなものを感じている。

俺に向けられるはずだった悪意を桃に向けさせて大きな怪我までさせ、記憶を失うまでにしてしまったと思うのも勿論だったが…。

それより前…。
慰安旅行からずっと、俺は…桃を早く手に入れたいがために、あまりにも強引に色々な事を進め過ぎたと、桃が記憶を失ったと知って以来、ずっと猛省していた。

だって…桃は、歩道橋の事件のことだけじゃなく、慰安旅行の前からの記憶を失ったんだ。

それって…。
忘れたかったんじゃないのか?
桃にとって、忘れてしまいたかった記憶なんじゃないだろうか?


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