極上御曹司のヘタレな盲愛
あの時は、俺が花蓮を好きだと誤解をしたままの桃に気づかず、色々と辛い思いをさせてしまった。
泣かせたし…家出までさせた。
女子社員たちに嫌な事をたくさん言われて…。

それに…結ばれた日も…その前の日も…。

俺は色々強引にやり過ぎたよなぁ。
桃は嫌だって言っていたのに…。
好きだって言われて…俺は浮かれ過ぎて…本当に調子に乗っていた。


桃は…それを全部忘れたかったんじゃないのか?
そう思って止まなかった…。


でも…たとえそうだとしても…。

俺には桃を手放す気なんて、これっぽっちも無いんだ。

前回が失敗だとしたなら、またやり直せばいい。

今度は焦らず、ちゃんと誤解を解いて、自分の桃への子供の頃からの想いをちゃんと伝えて。

普通の恋人同士のように付き合い始めて、色々な場所に行って恋人としての時間を持って…。

桃に優しくして守って、愛して愛して…。

桃があの時の事を、たとえ二度と思い出せないとしても、また俺の事を好きだと言ってくれて、結婚したいって思ってくれる時が来たら…。

「実は俺たち、もうとっくの昔に結婚していたんだぜ」
って…。

こんな事があったんだよと…笑いながら失った記憶を桃に話してやって…。

それまでは、ゆっくりゆっくり進めていこうと心に決めていた。

桃を…既に抱いてしまっている俺は…その身の柔らかさも…桃の何もかもを…知っている。

時折、深いキスの後などに桃が見せるあまりの可愛い表情に、そのまま抱いてしまいたい衝動が湧くのを抑えるのは大変だったが、なんとかキスだけで我慢してここまで進めてきたんだ…。



別れたいの…。



桃とちゃんと付き合い始めてひと月が過ぎ。
確かに桃はまた…俺の事を好きになってくれている…。

そんな事を、桃の仕草や言動から最近感じ始めて、とても嬉しく思っていたのに…。



別れたいの…。



「…なんでだ…?」

絞り出すように、ようやく言葉が口から出た。

桃は相変わらず俺の目を見ないままだ。


「…病室で…大河が付き合おうって言ってくれた時…お試しでもいい、ダメなら言ってくれていいって言ったでしょ…」

桃は俯いたまま小さな声で言った。

「考えたんだけど…やっぱり…私…大河の事を男の人として好きになることは出来ないって事に気がついたの。
大河は…お兄ちゃんの親友で、大事な幼馴染…それ以上に思えなかった。
それに…。
私、ほかに好きな人が出来ちゃったから…もう…大河とは付き合えない…」

ごめんなさい…と消え入りそうな声で桃は言った。

「…好きな人って…誰だよ…」

「大河の…知らない人…」

「…っ!」


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