極上御曹司のヘタレな盲愛
なんとなく桃がそんな風に言うだろうという予感は別れたいと言われた瞬間からしていた。

確かに病室で…付き合って欲しいと言った時に…お試しでいいからとも、ダメだったら言ってくれてもいいからとも…俺は言った。

何度忘れても…桃はまた俺を好きになる…絶対の自信があったから…。

別れようと…桃に言われるなんて、これっぽっちも思いもしなかった。

でも実際に言われてしまったショックは半端なくて…。

「じゃあ、そう言う事だから…。勝手な事を言って本当にごめんなさい…」

呆然としている俺に桃はそれだけ言うと、伝票をとり、一度も俺の目を見る事なく席を立った。


確かに…数日前まで、桃は俺の事が好きだったのは自惚れなんかじゃなく、間違いない事実だ。

恋愛初心者で不器用な桃が、同時進行で誰かとって、そんなのできるわけないだろう!
どれだけ嘘が下手なんだよ!

どうしてそんな嘘までついて、俺と別れなくちゃいけないんだ?

問いただそうとしてハッと気づくと、桃が店を出て行く所だった。

ヤバい!追いかけなくては!


慌てて席を立ったが、タイミング悪く内ポケットのスマホが鳴った。

無視しようかとも思ったが、営業マンの習性で電話に出ずにはいられない。

見ると兄の竜牙からだった。
兄貴から電話なんて珍しい。


店を出て、電話に出ながら左右を見回すも、桃の姿はどこにもない。
チッ!俺は何をしているんだ!
今すぐに似鳥の家に行ってみよう…。

「兄貴から電話なんて珍しいな。…でも…俺、今ちょっと取り込み中で忙しいんだよっ!
急ぎの用事じゃなかったら、後でかけ直すから…」

『仕事か…?』

「違うけど、人生の一大事で…」

『…桃ちゃんに別れ話でも切り出されたのか?』

「は?…ど…どうして…?」

『いや、浩介さんが、大河が焦っていたらそう訊いてみろって言うからさ…』

「…ウサコ先生が?」

『大河…。今、浩介さんと一緒に飲んでいるんだ…。お前も来いよ。…場所は…』

「だから!今、取り込み中なんだって!兄貴と飲んでる暇なんかない!桃を追いかけなきゃ…」

『浩介さんが、桃ちゃんの事でお前が絶対に知っておかなきゃいけない事があるってさ…。電話では言えない事みたいだから、とにかく来いよ…』

桃の事?

「…場所は…?」


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