極上御曹司のヘタレな盲愛
俺も、光輝や悠太と何度か行ったことのある雰囲気のいいバーだった。

店内はジャズが流れていて、程よく混んでいる。
カウンター席に座る2人の男は、とにかく目立っていた。


「よう!大河…。来たな…」

ウサコ先生が俺に気づいて軽く手をあげた。

「うっす。兄貴、久しぶり…」

「ああ…」

ウサコ先生の横に座りながら、カウンターの中に「ビール」とオーダーする。

「それで…桃に関する話って…」

切り出したところで、目の前にビールが置かれた。

「まあ、飲めよ」

正直言って、飲んでいる場合じゃないと思いつつも、滅茶苦茶飲みたい気分ではあった。
顔をしかめつつグラスの半分ぐらいを一気に飲む。

俺が一息ついたのを見て、ウサコ先生が言う。

「…桃から別れ話があったんだろう…」

「ああ。でも、ウサコ先生がなんで知ってるんだよ…」

「理由は訊いたのか?」

「…俺の事を好きにはなれなかった…、他に好きな奴ができたって…。
でも!…そんなの全部…アイツの下手くそな嘘だって…わかってるんだ…」

俺は残りの酒をグイッとあおった。

「バカだな…。様子がおかしかったから、もしかしてそんな事じゃないかとは思っていたけど…。やっぱり桃のやつ…変な勘違いをしているらしいな…」

「……?」

「医者としての守秘義務もあるし…。桃に『約束ね』って言われたから、どうしたもんかと思ったけど…。
やっぱり事情を知ってるのに、二人が不幸になると思うと…黙っているわけにはいかないよな。
桃は大河に何も言わないみたいだし…取り返しのつかない事になったら大変だもんな…」

「なんだよ…」

「…いいか、大河…。落ち着いてよく聞けよ…。

桃は……妊娠している…。

誰の子かは…わかるよな…。
でも、アイツに記憶はない。…しかも様子を見ていると、どうやら何か酷く勘違いをしてしまっているようだ…。どうしてお前や周りの人間が、桃に失くしている記憶の事を何も言わないのかは聞いているさ…。
でも事情が変わったんだ。
お前達がもうすでに結婚している事とか…。
全てちゃんと桃に話してやった方がいいと思うんだ…」


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