極上御曹司のヘタレな盲愛
家に帰ると、今日に限って珍しく家族みんな揃っていた。

「ただいま…」

リビングで寛いでいる家族に言うと、花蓮と母が私の顔をジッと見ていた。

「おかえりなさい…」

泣いた事、たぶんバレているんだろうな…。
お化粧も全部落ちちゃってるし…。
でも、みんなが揃っている今がチャンスだ…。


「あの…みんなに話があるんだけど…今いい?」

私もソファーに浅く腰掛けて、背を伸ばし、父、母、光輝、花蓮の順に顔をしっかりと見て話す。

「あのね…私、大河と今日別れました…」

はあ?と、光輝が大きな声を上げた。

「あとね、私…12月いっぱいで会社を辞めて、家を出て一人暮らしをしようと思うの。
一人暮らししてから、余所で就職する…」

「なんだって?」と父が言う。

「大学を出てから、ずっとそうしたかったの。
もう決めたから…。あと2ヶ月だけ…よろしくお願いします」

私はみんなに向かって、ぎこちなく微笑みながら頭を下げた。

「話はそれだけ…。お母さんごめんなさい。食べてきたから今日も晩御飯いらない。
あんまり体調良くないから、今日はもう寝るね…」

それだけ言うと立ち上がり、逃げるように自分の部屋に急いだ。


部屋に入るとすぐに鍵をかけ、ベッドに潜り込んだ。

ちゃんとお化粧を落とさないと後が大変なんだけど…今はそんな事なんてどうでもいい…。

言えた…泣かずに…。
ホッとすると同時にまた涙が溢れ出る。

もう…こんなに泣いてばかりで、ちゃんと一人で子供を育てられるの?

しっかりしろ!私!いつまでも泣き虫じゃダメだ!

そう思うけれど…涙が溢れて止まらない…。

「桃ちゃん!開けて!ちょっと話をしましょう!」
「桃…っ!」

母と花蓮の声が聞こえる。
でも、何も話す事は出来ない!
誰にも何も言わないって決めたんだもん!

お布団を頭からかぶって耳を塞ぐ。
お母さん、花蓮、ごめんね。
赤ちゃんも…ごめんね。
泣くのは今日限りにするから…。
明日からはちゃんと笑って生きるから…。
今日だけ思いっきり泣かせて…。

泣きながら…思い出すのは大河の事ばかり…。
そういえば…この部屋で…付き合ってから何度も大河とキスをした…。



もう…涙を流しすぎて、このままだと干からびてしまうんじゃないかと思った頃…。

1階のリビングが騒がしくなって…。

誰かが荒々しく階段を上がってくる音がした。


< 165 / 179 >

この作品をシェア

pagetop