極上御曹司のヘタレな盲愛
なんで?
今一番見たくない顔を見つけて、何か言われる!と、私は身構えて俯いた。
大河は私の顔を見ると「はぁ…」と溜息を吐き隣にどかっと無遠慮に座った。
なんで座るの⁇
「一人で、あれ全部持っていけるわけないだろう。スイカだけでも重いのに」
怒ったように言う大河は、手を伸ばし私の頬に大きな手を当てて、自分の方にグイッと私の顔を向かせると、流れた涙を親指でそっと拭い、泣いて赤くなった私の目蓋をキュッと優しく撫でた。
‼︎⁉︎
大河の意外な行動に固まってしまった私は、次の瞬間、カァーッと耳まで赤くなるのが自分でわかった。
大河に触れられるなんて…子供の頃以来なかったから。
大河は手を離すと、いつも私に向ける意地悪な笑いではなく、吃驚するほど優しく微笑み「茹でダコか…」と呟いた。
その後、暫く無言で川が流れるのを見ていたが、もう私の涙は止まっていた。
そういえば…。
昔から大河は花蓮の事が大好きだったのだ、という事を唐突に思い出した。
さっき花蓮と悠太の事を聞いた瞬間から、自分の悲しみで胸が一杯になっていて、すっかり忘れていた。
大河は小さい頃から事あるごとに私と花蓮を差別して、割とわかりやすく花蓮に好きだってアピールしていたと思う。
高等部の時だって、学食で友人達に『双子の妹は昔からずっと俺のものだから』と牽制したりしていたのに。
でも花蓮は、親友である悠太を選んでしまったんだ…。
「花蓮と悠太が付き合ってるの、大河は知ってた?」
私が訊くと、大河は川の流れを見つめながら答えた。
「ああ、二人が付き合ってるんじゃないかなとは、今年に入ってすぐくらいからなんとなく思っていた。花蓮はかなり前から悠太の事が好きだっただろ?」
「ええっ!そ…そうなんだ…」
「お前はさ、俺達からも花蓮からも、ずっと逃げていたから気づかなかったんだろ」
「…そうだね…。私にこんな風に泣く資格なかった…」
他人に色々言われるのが怖くて。
双子の妹なのにずっと関わらないように過ごしてきたんだから。
婚約の事を事前に教えて貰えなかったからって、悲しく思う資格なんて、本当に私にはなかったんだ。
「悪かった…」
大河が暫くしてから口を開いた。
「悠太と花蓮は1ヶ月前、お前にもちゃんと婚約の事を話そうとしていたんだ」
「えっ?」
「でも、光輝と俺が止めたんだ」
「なんで…」
「だって、お前こそ…その…小さい頃から悠太の事がずっと好きだっただろ?」
いつも言いたい事をズケズケ言う大河が、珍しく言いにくそうに私の顔を窺いながら言う。
「だから今回のこの慰安旅行で、お前が出来るだけショックを受けないように、光輝と俺がフォローしながら話をする筈だったんだ。
じゃないと、こんな事でもなきゃお前、俺達の事を避け続けてて会えないだろう。
こんな風にお前に知らせるつもりは、悠太も花蓮も全くなかったと思うぜ。
ホント、最悪だ…」
前髪をクシャッとかきあげ、眉を寄せる大河を、私は呆然と見つめた。