極上御曹司のヘタレな盲愛
旅行バッグを抱きしめた私は、大河の車の助手席で不貞腐れていた。

もう夜だったからどこをどう走ったのかわからないが、大河が住んでいるマンションは私の家から車で30分程走った所にあった。


「降りろよ」
不貞腐れて車から降りない私に

「なんだよ。お姫様抱っこで運んで欲しいのか?」
と私の膝裏と背中に手を差し入れてこようとするので

「ギャッ!降ります!今すぐ降ります!」
と慌ててシートベルトを外し、車から降りた。

地下駐車場から上がるエレベーターがあり、大河は部屋番号を押し暗証番号を入力した。

今の暗証番号…私の誕生日…違う、花蓮の誕生日だった。
本当に花蓮の事が好きなんだなぁ、この人。
改めて思ってしまった。

マンションは30階建てで、大河の部屋はマンションの最上階だった。

エレベーターを降りるとすぐに玄関があり、大河によると、この階だけワンフロア、ワンルームなのだそうだ。
さすが世界的企業グループの直系御曹司。

このビルは1階から3階まで店舗が入り、4階から10階まではオフィスフロア、11階から20階までファミリー向けの賃貸で、21階から29階までは高級分譲という事だった。

さっき上がってきた地下駐車場からの直通エレベーターは、21階以上の高層階専用のものらしい。

玄関ドアを開けると広いホールがあり、両側にいくつかの扉があった。

大河に促され「お邪魔しま〜す」と上がらせてもらう。

「明日からは、ただいまだからな」
すぐさま大河から訂正が入るが、無視!

ここが洗面所、お風呂、ここがトイレ、と次々と扉を開けて大河に説明される。

凄い、どこもかしこも高級ホテル並みのゴージャスな設備だ。
そしてどこもピカピカに磨き上げられている。

廊下の突き当たりのお洒落な天井まである大きな扉を開けると、何帖あるのかもわからないリビングにダイニング、使い勝手の良さそうなお洒落なキッチンがあり、その向こう…大きな窓の外側には、素晴らしく綺麗な夜景が広がっていた。

「うわぁ、凄い…」
窓に近寄ってよく見ようとしたら

「あとで…こっちが先」
と大河に手を引かれた。

リビングから続く扉を1つ開け
「ここは書斎兼、俺の仕事部屋。あと…」
もう1つ扉を開け
「ここが桃の部屋。送ってもらった荷物は全部ここにある筈」

私の家の部屋と同じくらいの広さの部屋に、私の部屋にあったものが元々あった配置に置かれていた。

が…随分スペースが余っている…。

あれ?

「大河?」
「なんだ?」

「えっと、私のベッドがまだ届いていないみたいなんだけど…」

「へぇ、おかしいな。まぁ、いいさ」
ともう1つの扉を開き
「ほら、こっちのベッド広いし…」

綺麗な顔でニッコリ笑った大河の向こうに、明らかに新品っぽいピシッと糊のきいたシーツでベッドメイクされたクイーンサイズのベッドが見えた。

「あ、ここ2人の寝室な」
しれっと言う大河に

「ちょっと待って!2人の寝室って!手違いで私のベッドが届いていないのなら、私今日はリビングのソファーで眠るから大丈夫よ!」

「そんなのダメに決まってるだろ!」

「大丈夫!」

「………」

大河は暫く黙っていたが
「わかった。正直に言う。お前のベッドは手違いで届かないんじゃない。処分したんだ」

「は?なんで?」

「本当だったら俺たちは明日の朝、役所で婚姻届を提出して結婚している筈だったからだよ。夫婦が一緒のベッドで眠るのなんて…普通だろ」


普通の…愛し合っている夫婦ならね…。


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