極上御曹司のヘタレな盲愛
髪を優しく撫でられる感覚にゆっくり目を開くと……目の前に喉仏と綺麗な鎖骨…。

頭の上から耳が震える程の綺麗なバリトンボイスで…「おはよう」と言われる。

ん…デジャヴ…?

ゆるゆると覚醒していた私は、さすがに叫びはしなかったがギョッとして身を引こうとした!

が背中に回された大河の腕が身を引く事を許さず、逆にグイッと引き寄せられた。

「おはよう」
大河が再び言い、おでこにチュッとキスをしたので私は真っ赤になった。

「お…はよう」
小さな声で答えたが、恥ずかしくて大河の顔が見られない。

頭の上で大河がフッと笑ったのが聞こえた。

またからかってる!
ムッとして大河の顔を見上げると…。

昨夜と同じ、愛しくてしょうがないものを見るような瞳をした大河と目が合い、私は呆然としてしまったと同時に、心臓が痛いくらい早く打ち始めた。


昨夜は気のせいだと思ったけれど…なんだろう?

大河が出すこの甘い感じ…。
なんだか…こんなの…本物の婚約者みたいじゃない!

いくら形にこだわるって言っても…。

いや!違う!違う!
大河が好きなのは、昔から花蓮なんだもん!

私じゃない‼︎
私は『双子の残念な方』だもん!違う!

そこまで思うとザワザワしていた心が落ち着いてきた…というより落ち込んだ。


ちょっと頭が冷えた所で
「そういえば、ここってどの辺りなの?」
大河の顔を見上げて訊く。

昨夜暗くなってからの移動だったし、食事も外に出ないでエレベーターだけの移動だったから、今ここがどこで会社までどれくらいかかるのかわからない。

私は少し方向音痴気味な所があるから、いつも知らない所に行ったりする時は、迷ってもいいように時間にたっぷり余裕を持って出かける事にしているので急に心配になってきた。

こんなにのんびりしていて大丈夫なのかな?

見ると時計は6時。

私が不安そうにしているのが伝わったのか、大河は微笑み私の髪を優しく梳きながら、ここが会社の最寄駅から3つしか離れていない駅すぐ前のタワービルだと教えてくれた。

え〜?
2年前にオープンしてマスコミでも話題になったそのタワービルに、私も何度か会社帰りに寄った事があるが、全然気がつかなかった!

下層の商業施設と10階までのオフィスのエントランスは表通りに面していて、昨夜立ち寄ったコンシェルジュが常駐するフロントのある11階以上のマンション専用のエントランスは、ビルの裏手にあるのだそうだ。

居住エリアと店舗オフィスエリアとは、エレベーターなども全く別らしい。

そうか、このビル大河のだったんだ。
ずっと逃げていたから知らなかった。

ここから会社までだったら30分あれば余裕だろう。
始業10分前には席に着いていたいから…あと1時間ちょっと…。

朝食を作ろうっと。

起きようとすると、大河が私の腕を引いて言った。

「俺、今日郊外に出張があるから車で出社するんだ。お前も一緒に乗っていけよ」

私は青くなって
「いやいや!ないから!一緒に出社するなんて絶対にないからっ!」
と叫んだ。

大河の車に乗って出勤するなんてありえない!

フアンに見られでもしたら殺される!
光輝の車にも乗せて行って貰った事はないのに!


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