極上御曹司のヘタレな盲愛
電車に乗り大河のマンションがある駅を通り過ぎ、5つ先の駅で降りた。

この駅のビルに隣接しているデパートが私のお気に入りだ。
下着から通勤着まで全部揃う。

「ああ、この色も可愛いな…」

ランジェリーショップで迷って下着のセットを3セット買い、通勤着を何着かと、明日高橋君とご飯を食べに行く約束を思い出し、一目惚れした淡いブルーのワンピを買った。

1階でいつも使っている基礎化粧品のトラベルセットを買うと、結構な大荷物になった。

どこかこの辺りのビジネスホテルにチェックインして荷物を置いてから何か食べに行こう。

スマホでホテルを探そうと、バッグから取り出し電源を入れると…。

大河から不在着信やらメッセージやらが大量に送られてきていた。

…見なかった事にしよう…。
それよりホテル、ホテル!

検索をしようとしたタイミングで着信音が鳴り、慌てた勢いでつい電話を受けてしまった。

「わっ!…も…桃です…」

『このどアホ!一体どこをほっつき歩いてるんだ!今、どこにいる?迎えに行くから!』

いきなり大河の怒鳴り声が聞こえた。

「…迎えになんて来なくていいよ…」

『はあ⁉︎』

「大河、私…一人暮らしするから…落ち着いたら連絡するから私の荷物返してね」

『桃⁉︎ちょ…ちょっと待…』

ピッ…。
スマホの電源を急いで落とした。

もう検索いいや。あそこに見えるホテルでいい…。

新しく綺麗なビジネスホテルが目に入った。
フロントできいてみると連泊可能らしい。
とりあえず今日、明日と2泊する事にした。

荷物を置いて何か食べに行こうと思っていたけど、面倒臭くなったのでホテル1階のコンビニで、おにぎりとお茶を買って部屋に入った。

部屋に入り、買った洋服をクローゼットにかけてシャワーを浴び、ホテルの変な部屋着に着替えて一息ついた。

コンビニの鮭おにぎりを咀嚼しながらゆっくり考える。

一昨日からずっと、ゆっくり考える事なんて出来なかったから…。

さっきの電話…大河…焦っていたな…。
もしかして心配していたのかな…。
ちょっと冷たく電話を切りすぎた?

いやいや大丈夫。
これまでも私の大河への対応は、これよりもっと塩だった。

一昨日から…なぜか大河との距離が近過ぎておかしくなっていただけだ。

あの意地悪男が形にこだわるとか馬鹿な事ばかり言って、好きでもない私にキスなんてしたりするから…。

そもそもあんなの…形だけで意味なんてないんだし。

お昼に…大河が花蓮と仲よさそうにしているのを見て…少し胸がザワザワして気持ち悪かったけど…。

…うん…あれは距離感がおかしくなっていただけ…。


冷静になって考えれば…。

私が婚姻届にサインさえしなければ、大河と結婚なんてしなくたっていいんだよね!

ましてや愛もないのに婚約者だからって一緒に住む必要なんてありはしない!
一緒のベッドで眠るなんて……論外だ。

大河の言う事にいちいちアタフタして…私…馬鹿みたい。

花蓮を好きな大河を応援する約束なんて、もう知らない!
いくら幼馴染の子供の頃からの恋を応援したいからって、自分の人生を犠牲にする事なんて出来ない!

親達の思惑なんて、私には関係ない。
どうせ『双子の残念な方』の私なんて、似鳥の家の中では軽すぎる存在なのだから…。

家探しと就活をしよう。
とりあえず家探しだ。

明日は高橋君と約束もあるし仕事もあるから会社に行くけど、明後日は有休を取って物件探しをしよう…。

夏期休暇前には住む所を決めて、夏期休暇中に大河の所から荷物を運ぼう。
勿論、楽々パックで。


「でも……。会社辞めちゃったら、美波先輩や恵利ちゃんともお別れする事になっちゃう…。それは…寂しいな…」


もう眠ろう。

高橋君に今日は俺の事をたくさん考えてと言われたのに…。

高橋君のことは全然思い浮かばず…。

眠りにつく寸前まで私の頭に浮かんだのは…。

大河と花蓮が仲良く笑いながら話す姿だった…。



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