極上御曹司のヘタレな盲愛
ヘタレ御曹司の追憶

不安

「桃から連絡があったら教えてくれ」

『ああ、うちに連絡があったらな。美波ちゃんと恵利ちゃんにも訊いてみるよ。慰安旅行の夜番号交換してたんだ。たぶんあの2人のどっちかの家だと思うけど…』


桃にマンションの鍵を渡すのを忘れていたと、朝、桃が家を出てから思い出した。

子供の頃から好きでしょうがなかった桃を、ようやく手に入れられそうで舞い上がっていたんだ。


午前中、出張先から桃のスマホに何回か連絡をしたが繋がらない。
就業中は電源を落としているのかもしれない。

昼に帰社し社食に行くと、悠太が桃たちは外に食べに出たと言った。

悠太に鍵を渡して貰っても良かったのだが…桃の顔が見たいから直接渡したい。
できれば触れたい!
なんなら、キスしたい…。

庶務課に行ってもいいけど、今朝、一緒に住んでいる事を誰にも知られたくないと、手を合わせてまで桃に懇願されたばかりだしそれは出来ない。

桃たちが昼食から帰ってきて社屋に入る前に捕まえよう、と俺は1階ロビーに降りた。

ちょうど今日の昼受付の当番は花蓮だった。

エレベーターから降りた俺と目が合うと、花蓮はニヤリと笑い受付カウンターから俺に手招きした。

「昨日、あれからどうなったの?桃をモノにできたの?」

訊いてくる花蓮に、俺は昨日から朝まで桃がどれだけ可愛かったかを力説して呆れられた。

「…で、まだどうにも出来ていないわけね」

「いや、逃げ回っていた頃の桃より明らかに俺に心を開いてる。落ちるのはもう時間の問題だ。
3ヶ月も待たないで結婚まで行けると思う」

「そう上手くいけばいいけど…。本当に大河は桃のことに関しては、超ヘタレだもんね」

「もうヘタレなんかじゃない。キスだってしたし…今夜は絶対に桃を全部俺のモノにする…」

「ようやく大河もDT卒業できそうね」

「うーるーせーぇ!」

花蓮がクスクス笑いながら言う。

「ホント百戦錬磨みたいな顔してるくせに、見掛け倒し!…どんだけ一途なのよ」

「しょうがないだろう。桃以外、誰も女に見えないんだから」

「聖人君子みたいな顔して百戦錬磨なのもいるけどね」

「それ悠太だろ」

2人で笑った。


そう、30歳を目前にした俺にはもう後がないんだ。
グズグズしてはいられない。

今までは…桃が悠太の事をずっと好きだと思っていて手が出せずにいたが…。

悠太が花蓮と婚約し、慰安旅行で桃が悠太の事を好きなのではないと確認した今となっては、もう多少強引な手を使ってでも、押して押して…桃が俺を好きになるように頑張るしかないんだ!


「大丈夫?もう昼休憩終わるけど、桃、戻ってこないわよね」

俺は腕時計を見てエントランスの方に目をやった。
13時を過ぎても桃は戻ってこなかった。

「庶務に電話して確認してあげる」
花蓮が言い、内線電話で誰かと二言三言話すと。

「桃もう席に戻ってるって。いつのまに戻ったのかしら。気づかなかった」

マジか…。
「じゃ、帰りを狙うとするか…」

「頑張ってね〜」

一応メールをしておこう。
定時後、会社近くの○○カフェで待て…。


やっぱり…鍵を悠太に渡しておいて貰っておけば良かったと後悔するのは数時間後の事だった。

いや桃が嫌がろうが、桃に直接渡しに行くか、定時ちょうどに逃げられないように首に縄をつけに行けば良かったんだ…。


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