極上御曹司のヘタレな盲愛
陶器のような滑らかな肌。
外国の血が混ざっている青みがかったつり気味の涼やかなアーモンドアイ。
スッと高く通った鼻筋。
意志の強そうな、くっきりした眉。
口角の上がった少し薄めの綺麗な唇。
少しクセのあるダークブラウンの髪を無造作に固めている。

何よりもその燃え上がるようなオーラ。
存在感が半端ない。

絵本から抜け出た王子様のように誰もが見惚れる綺麗な顔をしたその男は、震えるほどいい声で…いつものようにキツい言葉を私にかけた。

「コイツが前に出たくないって言うんだったら別に引っ張りださなくてもいいんじゃねぇの?わざわざ大勢の前で花蓮と比べられたくないって事だろ?
なぁ、桃。ホント昔からビビリで捻くれてイジケてる所、全然変わんねぇな、お前」

「大河‼︎」
私は震える声で小さく呟く。

水島大河‼︎

この男こそ!

小さい頃から事あるごとに私と花蓮を差別して、私の花蓮への劣等感を煽り続け、私の事を『双子の残念な方』と呼び始めた張本人!
諸悪の根源だ!

「お前の不満タラタラの膨れっ面なんて誰も見たくないんだから、前になんて行かなくてもいいんだよ。ほら、ちゃっちゃと自分の仕事しろ!仕事!」

「っ‼︎」
私はギリっと唇を噛んだ。

悠太の後ろから現れたのは。
これも光輝の子供の頃からの親友であり、兄や悠太と同期で『ニタドリ』に入社した、営業2課の課長である水島大河だった。

「大河!お前、何を言ってるんだよ!」
と眉を寄せて私を庇うように前に立った悠太。

それを見て大河は、悠太に負けず劣らず渋い顔をして見せ私に更に言った。

「ガキの頃から何かっちゃ悠太に庇ってもらって、お前って全然成長しないのな」

大嫌い!大嫌い!大嫌い!
叫び出したい衝動を飲み込んで、大河の顔も見ずに
「藤井課長。私はこのまま森山さんのフォローに入ります」
私は低い声で言うと、飲み物をのせたワゴンを押しながら二人の横を通り過ぎようとした。

大河なんかと関わりたくない!
コイツと関わると昔からろくな事がない!

大河を無視して通り過ぎようとしたその時。

「ちょっと待て。もう乾杯だろ?」
とワゴンを止めた大河が、ワゴンの上からシャンパンの入った紙コップを1つとって悠太に渡し、もう2つとった。

「捻くれ者のイジケ虫でも、兄の昇進は祝ってやれるよな」
意地悪く口の端を上げて笑いながら、私に1つ差し出した。

丁度、光輝のスピーチが終わり、社長である父の
「お客様への多大なる感謝と、我が社の今以上の発展を願って…乾杯!」
という言葉があり、ホールの中に割れんばかりに響き渡る拍手と「乾杯」の声の中。

私は大河を睨みつけ、差し出されたシャンパンは受け取らず、ワゴンの上のノンアルコール飲料の紙コップを1つ掴むと一息に飲み干し、空になったカップをグシャッと握りしめて。

「大嫌い!」と呟いた。

背中に意地悪くクククと笑う声と。

「桃ちゃん!もう、大河!なんでいつもお前は!」
と慌てたり怒ったりする悠太の声を聞きながら、私はその場から逃げるように歩き出した。

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