極上御曹司のヘタレな盲愛
4人の女子が意地悪くクスクス笑いながら、悠太がこの間買ってやったばかりの桃の靴に泥を詰めている…。

「ふふふ…やぁだ…、しおちゃん、やり過ぎ〜」

「キ〜モ〜イ〜。ふふ…泣くかな…泣くといいね」

「アイツ絶対にウチらがやってるの気づいてるのに、何も言わないもんね」

「部活の友達に守られて調子乗ってるから…」

「あんな『残念』なの、テニス部の連中も早く見放しちゃえばいいのに…」

自分達の醜悪な行為に夢中で…そっと忍び寄りスマホを掲げた光輝や、腕組みをして背後に立っている俺や悠太に気づく様子もない。

見ていると胸がムカムカして止まなかった…。
光輝も悠太も眉間に深い皺が刻まれている。

「随分、楽しそうだな…」

動画を撮っていた光輝が、もういいぜと俺に目配せをするので、奴らに低く声をかける。

4人は飛び上がって驚き、俺たちの姿を見て真っ青になった。

「み…水島さんっ!な…何でここに⁉︎」
「「大河様!光輝様!悠太様!」」

女たちが叫ぶと、斎藤紫織がハッとしたように、慌てて持っていた桃の靴を背中に隠した。

「今、背中に隠したもの…出せよ」

「……」

「出せって言ってるだろ!」

俺に怒鳴られ、渋々斎藤紫織が出した靴には泥が詰められていて…よく見ると泥の中でミミズが数匹クネクネと動いていた…。

俺達3人の顔が、嫌悪感で歪む。

「ちょっと貸して!」

悠太が眉間に皺を寄せたまま斎藤の手から靴を奪い、靴の甲の部分を持ち上げてチラッと見る。

「これ…確認するけど、君達の靴じゃないよね。君達は靴を履いているものね。
泥に塗れて名前の部分がよく見えないんだけど…。誰の靴か教えてくれるかな?」

悠太がニッコリ笑って訊くけれど、目は全然笑ってなくて怖い。

「……」

「早く言えよ!」

俺がまた怒鳴ると

「に…似鳥…桃…さんの…靴です…」

4人のうちの一人が小さな声で答えて、斎藤紫織に横目で睨まれていた。

「だよね。靴が無くなったってスリッパで帰っていた桃ちゃんに、僕がつい最近買ってあげた靴だもん。
よく見ると、ほら…名前が書いてあるのが見えたよ」

悠太がミミズと泥が入った靴を、桃の靴だと答えた女の鼻先にくっつくように、ズイと近づけた。

「きゃっ!」

「でも…何で僕が買ってあげた桃ちゃんの靴を君達が持っているのかな…?
しかも、こんなに残念な様子になって…」

悠太が目を細めて言う。こんなに怒っている悠太は見た事がない。

「そ…それは…」

女達が一斉に斎藤紫織の顔を盗み見る…。
やっぱり主犯はコイツか。

斎藤紫織は唇を噛んでしばらく下を見ていたが…。
やがて顔を上げて俺達に向かってニッコリ笑うと、白々しくも平気な顔をして言った。


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