極上御曹司のヘタレな盲愛
「誤解だ!」

短く言って、大河は私の腕を掴んでいた高橋君の手を、眉間に皺を寄せてはたき落した。

「もう俺の婚約者だから、気安く触るな!」

「…婚約者……慰安旅行から信じられない事が色々あって……家出して……って。
桃ちゃん!…もしかしたら課長との政略結婚を社長から言われて、それが嫌で家出していたの?」

大河が水島グループの直系御曹司だという事は、社内でも周知の事実だ。

でも政略結婚という訳ではない。
親達の思惑も多少はあったみたいだけど、それは大河の強い思いがあったからだし。
でも大河から逃げ出すために家出したのは間違いじゃない。

どういう風に説明すればいいだろうかと私が考えているのを肯定ととったのか…。

「桃ちゃん!よく考えて! 政略結婚で、課長と愛のない結婚なんかしても、きっと後悔するよ!俺にしておきなって!俺とちゃんと恋愛して結婚しようよ!」

と高橋君が食い下がる。

「お前…上司の婚約者を目の前で口説くとは、いい度胸だな!」

「恋愛に上司も部下もありませんよ!桃ちゃんは、俺が人生で初めて自分から好きになって告白した娘なんですッ!そんな簡単に諦められるかっての‼︎」

「アホか!俺だって20年以上もずっと片思いで、やっと手に入れたんだ!勝手に政略結婚って決めつけんな!
恋愛はこれからだけど、愛だけはたくさんあるんだ!昨日、今日、桃を好きになったお前とは、好きの重さが全然違うんだよ、わかったか!」

「そんな事言って…だいたい課長だって、桃ちゃんの気持ちをちゃんと手に入れた自信がないから、そんな指輪なんかで桃ちゃんの事を縛ろうとしてるんでしょ!」

「2人とも!ここ会社の前だから!」

睨み合うタイプの違うイケメン2人に、真っ赤になって抗議する。
もう!本当にやめて!


「ハイハイ、2人とも目立ってるからね…」

その時、神様が現れた…!

「皆川…」
「皆川主任…」

「朝から会社のまん前で喧嘩はダメでしょ。見てると暑苦しいから」

皆川主任は、大河と高橋君の背中を会社の方にグイグイ押しながら言う。

「桃ちゃんおはよう。この間はテニス楽しかったね。次は負けないからまたやろう」
と私に向かってニッコリと笑った。

「あっ、コラ!なんで桃ちゃんなんて、馴れ馴れしく呼んでるんだよ!」

皆川主任に背中を押されながら、大河が振り返り文句を言う。

「そうですよ!俺だってずっと名前で呼びたくて、ようやく呼べるようになったのに!」

もうやだ…。

「大体…なんでお前が桃の隣で歩いてるんだよ!こうやって会社に一緒に行くのに、俺がどれだけ苦労して説得したと思ってるんだ!」

「「子供かっ!」」
私と皆川主任の声が被った。

「なんか声を揃えて…仲良しですね…。もしかして皆川主任も桃ちゃん狙いですか?」

高橋君も口を尖らせる…。
違うからね!
皆川主任と目が合い、ふぅと2人で溜息を吐く。


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