極上御曹司のヘタレな盲愛
斎藤さんのパパ…。

そう聞いて私は…数年前、大学生の時に出た水島グループのパーティーで会った1人の男性を思い出して、小さく震えた。



その日父と母から、アメリカ駐在になった光輝の代わりに、花蓮と私2人でパーティーに同行する事を言いつけられた。

花蓮とまた比べられる、と気乗りはしなかったが、小さい頃から私の事を可愛がってくれた水島のお祖父様が私にとても会いたがっていると聞き、私は珍しくパーティーに出席した。

パーティーで久しぶりにお会いした水島のお祖父様は、昔と同じで私にとても優しく、私のお祖母様の桜さんと大親友だったという水島のお祖母様、燿子さんとお二人で、私が亡くなった桜お祖母様の若い頃に瓜二つに育っていると、涙を流さんばかりに感激されて、パーティーに来て良かったなと思っていた。

疲れたな…。
大勢に囲まれている花蓮を遠目に見ながら、壁際で休んでいる時だった…。

1人の中年男性が近づいてきて、私の顔を不躾にジロジロと見始めた。

「ふん。シオリが…似鳥の双子の残念な方がといつもボヤいているからどんなかと思ったら…。うちのシオリの敵にもならんな、地味すぎる。あっちの双子の片割れと比べたら本当に残念だ…」

男性は独り言のようにそう言うと、私を頭の先からつま先まで舐め回すような、値踏みするかのような嫌らしい視線で見てきた…。

シオリ…。たぶん学校で昔から私の事を嫌っている、斉藤紫織の父親だろうか。どこかの社長の娘だって聞いた事あるし…。

こんな場所で『双子の残念な方』と見知らぬ男性から言われてしまった事がショックで、私は足早にその場を立ち去った。

化粧室で…鏡を見ながら大きく息を吐き、ようやく気分が落ち着いてきた。
軽くお化粧を直して化粧室から出た所で…また斉藤紫織の父親であろう男性に出くわした。

待ち伏せしていたのだろうか…。
表情を強張らせ、身を固くし、急いで横を通り過ぎようとした私の腕を、汗ばんだ手で強く掴んだ彼は言った…。

「待っていたよ…。シオリが残念だと何度も言うからどうかと思ったが、まあ見られない顔でもない。はっきり言って私の好みではある…。
シオリの障害になるのなら排除してやろうと思ったが、丁度いい。
水島の御曹司の事はきっぱり諦めてシオリに譲れ。
その代わり君には思う存分贅沢な思いをさせてやるから私の女になれ。
残念な女を私が拾ってやるんだ、有り難く思え。
さあ、上に部屋をとったんだ、行こうか…」

と掴んだ私の腕をグイグイと引っ張り始めた。

「や、やめて下さい!」

この人は一体何を言ってるの?

他人の目もあり大きな声で抗議するのも憚られ、小さな声になってしまう。何より気分が悪くてしょうがなかった。

斉藤紫織の父親であろうに、自分の娘の同級生って知っていてこんな事を言うの?

掴まれた腕から気持ち悪い虫が這い上がってくるように思えた。
吐きそう…。

今にも倒れるかと思った時…。

「何をしている?」

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