極上御曹司のヘタレな盲愛
私が小さく震えたのを大河が感じたのか…。

「どうした?」

「ううん。ちょっと嫌な事を思い出しちゃって…」

「あの女のパパの事じゃないのか?」

「え?」

「ちゃんと航我から聞いてるから…」

そうか…。
あの頃の航我君は、光輝と一緒にアメリカ赴任中だった大河の『間者』だったんだっけ?
私に変な虫がつかないか見張らせていたって言っていた。

あの時の事も、ちゃんとアメリカの大河に報告されていたんだ…。
そういえば…竜牙さんも航我君も…それらしい事を言っていたような気がする。

「大丈夫だ。俺も今、改めて思い出して虫酸が走って腹わた煮えくり返ってるから…」

大河が私の耳元で囁く。

「やっぱりあの父娘、許せないな…」

その時…。

「水島さんは私のものなんだから!私の目の前で!私を無視して!2人でコソコソ内緒話をしてるんじゃないわよ!どうして…」

斉藤さんは…血走った瞳で私と大河を見据え、叫んだ。

「どうして…ずっとずっと前から…その子なのよ…。そんな普通の子の…どこがいいの?
花蓮ちゃんだったらわかるわ。だって私より美人だもの…。だったら諦めもつくのに…。
でもそんな地味な子じゃ、私は諦める事が出来ない!
パパだって言ってたわ。『双子の残念な方』はお前の敵じゃない。お前の方が綺麗だから、お前には敵わない。
残念な方は、そのうち俺が何とかしてやるから安心してろって…。
残念な方が居なければ、水島さんは私の魅力に気づいて…私のものになるからって…。
そう言ったもの!
でも…。
なんで今…貴方の隣に居るのが私じゃなくてその女なのよ?
ねぇ…。初等部で初めて見た時から貴方の事がずっと大好きなの…。
私は…貴方じゃなきゃダメなの…。
そんな女の隣じゃなく…お願い…ずっと私のそばに居て…私を見て…私を愛して!」

背中を冷たい汗が流れるのを感じる。

周りの社員達も固唾を飲んで斉藤紫織を見つめていた。

「なんか…気分が悪くなってきたわ、俺」

「…俺も…」

「確かあの時もこんな感じだったよな…中等部の下駄箱で…」

「ああ、暫く気分が悪かったな」

「人間として話が通じない奴と話すと、こんなにも疲れるんだって」

「やっぱ、あの父親にしてこの娘だな…」

「父親?」

「桃、お前家族に言ってないのか?あの時の事…」

「うん、内容が内容だけに言いにくくて…」

大河が光輝の耳元でヒソヒソとあの時の事を話している。

「俺らがアメリカ赴任中に水島のパーティーで……って事があって…」

「はあ?バカ桃!なんでそんな大事な事を黙ってるんだよ!親父だってそんなの知ってたら、いくら好条件でもST製薬と提携なんてしてないだろ!」

「だって…」

言いにくいのもあったし、家族の中での私の立場も微妙だと思っていたし…。

私に滅多に怒った事がない光輝が、目を三角にして怒るので、シュンとしてしまう。

「桃を責めるなよ!」

大河が私を光輝から庇うようにキュッと抱きしめた。


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