極上御曹司のヘタレな盲愛
斉藤紫織の呪いの言葉の最後の方は、私の耳に届く事はなかった…。

大河が私を腕の中に閉じ込め、私の片耳を大きな手で塞ぎ、もう片耳を自分の胸にギュッと押し付けたから…。

大河の心臓の音しか聞こえない…。

「大丈夫だよ…。俺が…世界一、桃を幸せにしてやるから…」

つむじ辺りで呟かれた言葉は、大河の胸を伝わって私の耳に届いた。

…ドキン…。

こんな時なのに…。
心臓がドキドキして…キュンキュンして…止まらない!

どうしよう…私…大河の事が好きだ…大好き。

コクンと小さく頷くと、私を抱きしめる手の力が強くなった。


「もう少しだけ我慢してくれ…」

大河はまた一つ頭の上で呟くと、私を片手で抱いたまま、どこかに電話をしだした。


「俺だ…。航我…ST製薬を潰せ…。徹底的にやれ。
例の…斉藤父娘がしばらく…出来れば一生…日本に居られないようにしろ。
…いや…半日でやれ…。
出来そうになかったら、桃の幸せのためだと言って祖父さんに頼め…。………わかった…頼んだぞ…」


大河は電話を終えると、光輝に向かって静かに言った。

「光輝、ST製薬との提携…今月末じゃなく、今日の午前中に終了させろ…。今日中にST製薬はなくなる。
航我の仕事は早い。アイツは前からその父娘が嫌いでST製薬に関するネタを集めていたらしい。そいつの父親の会社だろ?ネタには事欠かないってさ。
いつか出してやろうと思ってたって言ってたぞ。
午前中にはネット…午後からはテレビや紙面でバンバン出る…。ニタドリに影響が及ばない内に早く手を切れ。
提携終了後には、水島の製薬部門が今以上の条件で引き継ぐ事を約束する」

光輝が慌ててどこかに電話をしだした…。


「そういうことだ…。あんたもう…パパの所に帰った方がいいんじゃないか?
まあ…まだ帰る家があったらの話だけど…」

斉藤さんに氷よりも冷たい瞳を向けて、そう言い放つ大河。


「う…嘘でしょう…?」


呆然とその場に座り込む斉藤さんには構わず。

「桃…医務室に行くぞ。光輝、手当てが終わったら行くから…後を頼む」

大河は電話を終えた光輝にそう言うと、私の肩を抱いたまま階段室の方に歩き出した。

医務室は2階にある。

その時、非常口の扉がバーンと開き、階段室から悠太と美波先輩、恵利ちゃんが飛び出してきた。

「桃ちゃん!大河!光輝!」
「桃ちゃん!大丈夫⁉︎」
「桃センパイ!加勢にきましたよ!」

「悠太!美波ちゃん!恵利ちゃん!丁度いい所に来た!
会議室の使用許可をとって、この人達みんな会議室に連れて行ってくれないか?」

光輝が、俯いて並んで立っている営業アシの人達と受付チームの人達を指差す。

「あと…この中に人事の人っている?あ!いた!君、人事部長か課長を呼んできてくれるかな。ずっと見てたから、理由も言えるよね…」

周りで見ていた女性社員の中から人事課の人を探し、用事を言いつけている。
指名された女性社員は「承知しました!」と走って行く。

「後の人達は、早く部署に行って仕事を始めて下さい。
あ!そうそう。ここで見たり聞いたりした事は、あまり他では言わないようにね…」

美波先輩が言うところの『キラキライケメン』の光輝が、ギャラリーを見渡し人差し指を口に当ててそう言いニッコリ笑うと、女性社員達は顔を赤らめ…「は〜い」とそれぞれの部署に散って行った。

光輝はああ言ったけど…。
みんなが部署に散ったら、瞬く間にここでの出来事は会社中の人間が知る事になるに違いないだろう…。


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