君の色に染められて。
君の色が輝いている。

四月某日。私は、桜川沿いの道を歩いている。
色があるのに、色がない。
そんな暗い世界を、1人歩いていた。

私の手に持っていた本が、私の手から滑り落ちる。
私が拾おうとすると、目の前の人が拾ってくれた。
「あれ?錦じゃん。」
拾ってくれた人は、隣の席の華島くんだった。
「ありがとう、華島くん。ここでなにをしてるの?」
桜川はバスの通らない遊歩道だ。
だから、バス通の華島くんがいるのは変なわけ。
「俺は…桜、見にきたんだ。」
「桜?」
桜の花びらは散って、もうほとんどが葉っぱとなっているのに。
何を見にきているのだろう?
「うん、桜。ほとんど花は散ってるけど、葉桜もいいよな。」
「葉桜が、いい…?」
どうしてだろう?
せっかく見るのなら、華やかな方がいいに決まっている。
もっとも、私はこの世界に彩りを感じてなんていないのだけれど。
「いいだろ、葉桜。桜の花より、生きる力を感じる。」
華島くんって、変わった人だな。
そう思ったけれど、なんだかわかる気がする。
ふと華島くんを見ると、あんだけ葉桜と言いながら、頭に花びらが乗っている。
「桜、ついてる。」
私は少し背伸びして、華島くんの頭を払う。
「あっ…ありがとう。」
それまで合っていた目が急に逸らされてドキッとする。
でも、そっぽ向いた華島くんの顔が赤く染まって見えて、なんだか笑えてくる。
私たちの笑い声だけが、桜川に響いていた。

それからは、葉桜を見ると、世界はほんの少し色づいて見える。
私の世界はきっと、あの日から君の色に染められたんだ。
今日は光輝と待ち合わせしている。
「沙彩!」
光輝が笑顔でこっちに手を振っている。
私も笑顔で手を振り返した。

今日もまた、君の色に染まってく。
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