【完】一生分の好きを、君に捧ぐ。
帰り道の途中、忌々しい交差点に差し掛かる。


横断歩道の向こう側に目を移した。


蓮の事故以来取り付けられたガードレールのすぐ傍に、花束が二つ手向けられている。それと雑貨も。私が置いたものと、他の誰かが置いたもの。


……蓮は、人望が厚かった。小学生からつづけていた野球でも活躍していたし、本当にだれにでも優しいから、みんなに好かれていた。

だから今でも、花束や雑貨が途切れることはない。


「……、葉由?」

「あ、ごめん。何か言った?」

「ううん、大した話じゃない」


横断歩道の信号が青になった。


それでも左右の車が、本当に停まっているのか確認して、やっと渡る。事故以来ずっとそうしてきた。


そういう私に違和感があったのかもしれない。


横断歩道を渡りきったあと、「これって……」と、手向けられた花束を見て、大賀君が言った。


「うん……ここ、蓮の……事故現場」


チカ、チカと青が点滅する。


「そう……」


大賀君はかなしげに赤信号になった道路に目をやった。



ぐっと下唇をかみしめる彼は、優ちゃんのことを重ねて、思い出しているのかもしれない。


「行こう」


そう言ったのに、彼は動こうとしない。


「さっき向こうに花咲いてたよね?」


そう言って、横断歩道の向こう側を指さした。


「咲いてたっけ?」


どうだっけ?


「ちょっと行って来る。葉由は待ってて」


赤信号が青になってから、大賀君は横断歩道を渡ってしまった。



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