【完】一生分の好きを、君に捧ぐ。
……その辺からだ。

葉由と蓮がぎくしゃくしてきたのは。


葉由が、まるで恋する乙女みたいな顔で、バイオリンを弾く俺を見つめるようになったのも、そのころ。


「やっぱり蓮と別れようと思う」と俺に相談してきた葉由のズルさが、俺は嬉しかった。


だけど、蓮は本当に葉由が好きだったから、ずっと答えを先延ばしにしていた。


野球部の試合がどうとか、なんだかんだ、理由をつけて。


蓮の隣で葉由の顔が曇っても、蓮は見ないふりをしていた。



そんな、中一の、夏の……始まり。


親の都合で、俺の転校が決まった。


ここから電車を使って二時間かかる、隣の隣の県。


受けさせられた中学の編入試験にあっさり受かったのは、英才教育の賜物だと、母親は高笑いしていた。


「転校したくない」

「何言ってんの。仕方ないでしょ」


話さえ聞いてもらえなかった。


せっかく、やっと。葉由といい感じになれたのに。



「はーくん、制服届いたの?」

「うん…….」


「本当に行っちゃうんだね……」


ーーー新しい制服見せて。


学校帰りに俺の家に寄った葉由は茶色い制服を見にまとった俺を見ていった。



「似合うね……。似合うのに、全然着てほしくない……」



転校する前に、思いを伝えようと、頭の中で企てては、いた。


だからこのとき、言えばよかったんだ。でも言えなかった。


これが俺の第一の後悔な気がする。



でも結局、クラスで開いてくれた送別会の日も、それを実行には移せなかった。




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