【完】一生分の好きを、君に捧ぐ。



  ◆



今、眠っている葉由は、どんな夢をみている?
怖い夢見てない?


凝りもせず、また、病室に入った。


葉由の両親がいない……。一旦帰ったんだろうか。


パイプ椅子に腰を下ろして、数分後だった。


再び葉由が目を開けた。



「葉由……」


俺を見た葉由は目に涙を浮かべている。


「はーくん……」


その声にため息がでる。
まだ俺のことを覚えていてくれた。


「……具合、大丈夫?」


葉由は静かに頷いた。


「どこまで思い出した?」


「わかんないけど……はーくんのことは、一通りわかる。いじめっこで……でもほんとは優しくて……音楽センスのずば抜けた、幼馴染……」


やっと……。やっとだ。

震える唇をかみしめる。


両目に浮かんでしまった涙が、瞬きに負けて、零れ落ちた。


「ずっと……思い出せなくて。ごめんね……」


消えそうな涙声。葉由は肩を震わせた。



< 192 / 206 >

この作品をシェア

pagetop