【完】一生分の好きを、君に捧ぐ。
「……えっ?」


距離の近さに思わず上体を反らした。
それでも、目が合っていて、しかも距離を取ったせいで、ピントまで合ってしまう。


「そんな逃げなくても……」


いたずらっぽく笑う大賀君に、何を返していいかわからなくて、またうつむいた。


机に出していた教科書を広げて、予習を始めたふりをするなんていう、我ながらへたくそな演技で、熱くなっていく顔を隠そうとして。


「ねぇ」


まだ一文字も読んでいないのに、教科書をぐいっと外側に倒されてしまう。


長くて綺麗な指。大賀君の手で。


「一応、話しかけてんだけど」

――無視しないでよ。
そんな馬鹿な。


「ご……ごめん」


言葉に詰まる私に、大賀君は片手で頬杖をついて言う。


「君、名前なんだっけ?」

「楠本葉由(くすもと はゆ)……」

「俺は、大賀千颯(おおが ちはや)」


そんなわかりきったことを言う大賀君に小さく呟いた。


「ごめんなさい。私、人見知り、みたいな……。無視じゃないの」


「そうなんだ」


大賀君の綺麗な二重が幅を広げ、唇は優しく弧を描く。


……あっという間だ。瞬殺だ。見惚れる以上の言葉が欲しい。



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