【完】一生分の好きを、君に捧ぐ。
今日、大賀君は何回くらい女子に呼び出されたんだろう。
ひっきりなしだった。
今も、呼び出されている。いつ帰って来るんだろう。
告白するつもりはないけど、なんとなく帰り渋っている。たった今終わらせた宿題のプリントを、いつもより丁寧な四つ折りに畳みながら。
すると、「あれ、まだ残ってんの?」と、すぐ後ろから声をかけられた。
振り向けば、頑張って走ってきました、というふうに息を切った大賀君。
アッシュブラウンの綺麗な髪が、少し乱れている。
「はぁー、逃げ切った」と、大賀君の右頬にえくぼが浮かんだ。
「逃げたんだ……。すごい人気だよね、大賀君」
「みんな別に俺のこと本気で好きじゃないと思うけどね。イベントみたいになってそう」
そんなことはないと思うけど、カムのボーカルというのは学校の芸能人みたいなものだから、もしかしたら半分くらいはイベント化しているのかもしれない。
そんなイベントの行方が、気になってソワソワする。教室に誰もいないという好条件。
勇気を振り絞って、私は聞いた。
「彼女できたの?」
「まだ」
”まだ”……。どきんと左胸が跳ねる。
伸びをした大賀君は、首を左右に倒して、さらに肩を回す。
「お疲れ様」とねぎらうと、大賀君は、私の机の前に回ってきた。
教科書に書かれた”楠本葉由”の文字。それを指でなぞっている。
「……くすもと、って言いにくいよね」
しみじみと言われた。
「そうかな……?」
「うん、いいにくい」
はじめて言われたけど……。
「葉由って呼んでいい?」
「えっ……はい。うん」
どうしよう、どうしよう、どうしよう……葉由だって。
机に視線を下げたまま、コクッと頷いた私の頭に、大賀君の手が乗っかった。
「葉由って俯いてばかりだね。こっち向いて話せないの?」
え?と思った瞬間には、大賀君の手が私の頭を掴んで、クイッと上に向かされた。
視界いっぱい、愛嬌のある笑顔。それは、結構ズルいと思う。
「うん……わかった」
何がわかったんだか。
目線さえ合わせられないくせに。
「葉由っておもしろいね」
からかうみたいに笑う彼に、心臓が痛いほど動いている。