【完】一生分の好きを、君に捧ぐ。
「このへんのやつ、いくつか買おうかな」

「たくさんいるの?」

「んー、まぁ、せっかく来たしね」

「そうなんだ」

「俺、葉由のえらんだやつがいい」


大賀君は、ちらっとこちらに目をやる。
愛嬌が駄々洩れの笑み。それは、気軽にやったらいけない。ズルい。


「えっと、そしたら……何色がすき?」

「赤と黒かなぁー」


ピックに神経を集中させようと必死な私に、大賀君の視線が意地悪く這っている。


「……っ」

「本当にすぐ赤くなるんだね」


上気した頬をツーっと伝う人差し指。
そのまま私の頬に手を添えた大賀君。


その顔は、やっぱり楽しそうで意地が悪い。


震える瞳は、彼にはバレバレだ。


頬を覆うその手から離れるように、顔をそむけた。
そんな私を、大賀君は笑う。


「……なんか新鮮」

「新鮮って……」


呆れまじりの照れ隠し、みたいな。そういう不器用丸出しの表情で 「……大賀君、楽しそうだね」となるべく平気そうに返す。


私をからかうのがすごく楽しそうな彼は答えた。


「うん、楽しい。葉由は楽しくない?」

「楽しい……っていうより……」


黒と赤のピックをいくつか手に取り、じっと眺めているふりをする。


ピック選びに集中なんて、全然、まるでできない。そんな私を大賀君は、まだ見ている。


「楽しいって、いうより。ドキドキするよ……」


その視線に降参する。



< 32 / 206 >

この作品をシェア

pagetop