【完】一生分の好きを、君に捧ぐ。
「ドキドキって……なにそれ。葉由って可愛いね」
そんな言葉にまた心臓を殴られる。
大賀君のことだから、誰にでも言っているに違いない。
でもそんな都合のいい言葉に、まんまと鼓動が速まっていく。
正気になれ、私。
頭をフルフルと振った。
そんなことより、ピック……!
まず赤。赤は一種類しかない。
ケーキのクリームが垂れる、みたいな、そういうのならよかったのに、どうして赤色でそんな絵が描かれているんだろう。
「……こ、これ。赤はちょっと……あれかなって」
「あーわかる。グロい」
「うん……血液を連想する」
「俺、血はマジで無理なんだよね」
「そうなんだ。黒はこれ、かっこいいと思う。あとこれもキラキラしてて、可愛い」
「じゃあそれにする。葉由ありがと」
にこっとあんな笑みを浮かべられたら、「どういたしまして」ですら、緊張してしまうのに、彼にそんなことは関係ない。
「そこで待ってて」
言われるがまま、私は一列に並んだ電子ピアノの前で、会計に行った大賀君を待っている。
電源ランプの点灯したピアノの鍵盤を、人差し指で押した。軽い。真ん中のド。
ピアノなんて、久しぶりに触ったな……。